モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

小児・青年期の心的外傷後ストレス障害

診断上の問題

若年者において外傷体験やPTSDはよくみられる。18歳以下では3人に1人が外傷体験を経験しており1,およそ13人に1人がPTSDを発症する1。青年期のPTSDの有病率は,例えば,救急医療室に搬送されたり,犯罪現場に居合わせたり,難民/亡命者であったりなど,高リスク群でははるかに高くなる可能性がある。PTSDの若年患者は自傷行為(約50%)と自殺企図(20%)のリスクが高く,例えば,就学・就労しておらず,職業訓練も受けていない状態(若年無業者,いわゆるニート)など機能障害を示すことも多い(25%を超える)1。PTSDの若年患者の4人中3人は精神疾患を併存していることに注意する必要がある。最もよくみられる併存症はうつ病,行為障害,アルコール依存症,全般性不安障害である1。また,PTSDは,心的外傷に曝露した若年者で最もよく診断される疾患というわけではなく,それらの若年患者でも有病率が高いのは,一般集団で最も有病率が高い疾患(例えばうつ病,行為障害およびアルコール依存症)の方である1

PTSDの診断は,侵入的再体験,心的外傷に関連する刺激の回避,心的外傷曝露後の過覚醒の三徴に基づいてなされる。心的外傷時の記憶の異常な加工によって,PTSDの若年患者は,悪夢や意図せぬ悲惨な記憶を通じて心的外傷イベントの追体験を繰り返す。その追体験は,「今ここで」起こっていることのように感じることが多いが,若年者の場合,明らかな解離性症状やフラッシュバックとして現れないことも多い。PTSDの若年患者は,追体験を最小限に抑えるために,心的外傷事象を思い出させる場所や人から距離を置き,忙しい状態に身を置いたり,気持ちを逸らしたりなど,明らかまたは密かな回避行動を起こすことが多い。前述の症状の結果,PTSDの若年患者は常に脅威を感じることが多く,それゆえに,生理学的な過覚醒を示し,危険に敏感で用心深く,短気で日常的な作業に集中することが困難である。臨床像は多岐にわたるので,小児・青年期のPTSDの評価および治療は,心的外傷に曝露した小児の診察の経験が豊富で,発達段階における症状表出の多様性を正しく認識することのできる臨床医が行う必要がある。

臨床指針

NICEガイドラインでは2,若年者PTSDの治療として,心理療法に軸足を置くべきであるとしている。単発の心的外傷イベントに対しては全12回,心的外傷イベントが慢性的か繰り返し生じている場合には,より長期にトラウマにフォーカスを当てたCBT(TF-CBT)を行う。TF-CBTが有効でない場合や,患者の希望がある場合には,眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)を含めてもよい。

NICEガイドライン2,米国児童青年精神医学会3,および国際トラウマティック・ストレス学会(ISTSS)4の既存エビデンスに基づき,若年者のPTSDの治療には薬物療法は推奨されない。成人における薬物療法(SSRIとSGA)の有効性に関するエビデンスも現状ではやや限定的である5, 6。しかし,併存疾患が高い割合で認められることから1,併存している精神障害をターゲットとする薬物療法が必要となる場合がある。成人患者のPTSDでは,最も支持されている薬剤はfluoxetine,パロキセチン,およびベンラファキシンである7。MDMA8と幻覚剤9も有望であることが示されている。これらの薬剤はいずれも,小児と青年期の患者には現在全く用いられていない。


<編集協力者コメント>

上述ほどではないものの,児童相談所からの紹介を受けている場合には,外傷体験が問題となるケースは本邦でもよく経験する。療育者や教師,同胞などの身近な人間から,慢性的に繰り返し外傷を加えられていた場合には,非常に猜疑的,虚無主義的になっている印象がある。そういったケースでは,トラウマに焦点を当てた治療に進む前段階の工夫が必要と思われる。

(加治 正喬)

参照文献
  1. Lewis SJ, et al. The epidemiology of trauma and post-traumatic stress disorder in a representative cohort of young people in England and Wales. Lancet Psychiatry 2019; 6:247–256.
  2. National Institute for Clinical Excellence. Post-traumatic stress disorder. NICE guideline [NG116] 2018; (href="https://www.nice.org.uk/guidance/NG116") https://www.nice.org.uk/guidance/NG116 .
  3. Cohen JA, et al. Practice parameter for the assessment and treatment of children and adolescents with posttraumatic stress disorder. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 2010; 49:414–430.
  4. International Society for Traumatic Stress Studies (ISTSS). Posttraumatic stress disorder prevention and treatment guidelines: methodology and recommendations 2019; https://istss.org/getattachment/Treating-Trauma/New-ISTSS-Prevention-and-Treatment-Guidelines/ISTSS_PreventionTreatmentGuidelines_FNL-March-19-2019.pdf.aspx .
  5. Cipriani A, et al. Comparative efficacy and acceptability of pharmacological treatments for post-traumatic stress disorder in adults: a network meta-analysis. Psychol Med 2018; 48:1975–1984.
  6. Huang ZD, et al. Comparative efficacy and acceptability of pharmaceutical management for adults with post-traumatic stress disorder: a systematic review and meta-analysis. Front Pharmacol 2020; 11:559.
  7. Ehret M. Treatment of posttraumatic stress disorder: focus on pharmacotherapy. Ment Health Clin 2019; 9:373–382.
  8. Jerome L, et al. Long-term follow-up outcomes of MDMA-assisted psychotherapy for treatment of PTSD: a longitudinal pooled analysis of six phase 2 trials. Psychopharmacology (Berl) 2020; 237:2485–2497.
  9. Krediet E, et al. Reviewing the potential of psychedelics for the treatment of PTSD. Int J Neuropsychopharmacol 2020; 23:385–400.