モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

小児・青年期の不眠症治療におけるメラトニン

不眠症は小児期によくみられる症状である。その背景因子として,行動的要因(不適切な睡眠の関連付けや夜更かし),生理的要因(睡眠相後退症候群),あるいは潜在する気分障害(不安,うつ病,双極性障害)等が挙げられるだろう。学習障害,自閉症,ADHD,感覚障害(特に視覚障害)を有する小児では,あらゆる種類の不眠症がよくみられる。最初は行動療法的な介入を行うべきであり,これは強いエビデンスによって支持されているが,現在メラトニンが小児の不眠症に対する第一選択の薬物療法である1

メラトニンは,松果体により産生される概日性ホルモンである。メラトニンの増加は,夜に暗くなることでもたらされ,自然睡眠の開始より約2時間先行する2。メラトニンは,睡眠導入と概日システムの同期に関与している。

メラトニンには,速放性,徐放性,液体製剤等様々な種類の未承認の製剤がある。多くのメラトニン製剤は医薬品等級ではなく食品等級のもので,高価なものもある。メラトニンの徐放性製剤(Circadin)は,英国で2008年4月に55歳以上の不眠症患者に対する短期治療薬として承認された。多くの小児は錠剤を嚥下できず,またこれらの錠剤は破砕できるが(破砕すると速放性になる),承認上,医薬品等級の徐放性製剤の小児への使用は制限されている。しかし英国では,メラトニンの夜間の体内放出プロファイルを模したメラトニン徐放剤のミニタブレット(Slenyto)が,現在,小児の自閉症児を対象として承認されている。この薬剤は,自閉症児を対象とする第3相多施設共同無作為化プラセボ対照試験で評価された。本試験では,13週間の二重盲検治療期の後に延長非盲検期を設けて,有効性と安全性モニタリングを継続した。試験の結果から,介護者の日誌で報告される入眠および睡眠の維持(睡眠潜時,総睡眠時間,最長睡眠時間)において臨床的に有意な改善が示された3。この改善効果は長期間維持された。薬物療法の忍容性は良好で,予期されない安全性の問題は報告されなかった。この試験は,ASDを有する小児・青年期の患者における不眠症や睡眠障害の治療に関して最近発表された,米国神経学会議による診療ガイドラインにおいて,「クラス1」に格付けされた唯一の研究であった4。副次評価項目では,患者の社会的機能および行動,ならびに「介護者」のウェルビーイングにおける改善が示された。

メラトニンの速放剤と徐放剤の直接比較研究がないため,速放性メラトニン製剤を使用すべきか,使用するならいつにすべきかに関する良質なエビデンスはない。数種類のメラトニン類似化合物が生産または開発されているが5,小児集団にはほとんど使用されておらず,同等性試験ではメラトニン自体と比較しての優越性は示されていない。

有効性

原発性睡眠障害の治療にメラトニンを使用した成人と小児を対象としたメタ解析では,メラトニンは,睡眠潜時を短縮し,総睡眠時間を延長し,全体的な睡眠の質を改善した。睡眠に対するメラトニンの有効性は中程度であるものの,継続的なメラトニン使用によって消失するものではないと考えられる6

副作用

RCTおよび公表された症例集積研究で,メラトニンの投与を受けた多くの小児は発達障害や感覚障害を有しており,この集団で軽微な副作用を検出するのは限界がある。副作用のスクリーニングは,すべての研究でルーチンに行われたわけではない。非常に小規模な症例集積研究を含む初期の研究では,短期的にはメラトニンはけいれん7,および喘息8, 9を悪化させると報告されている。他に報告された副作用には,頭痛,抑うつ,不穏,錯乱,悪心,頻脈,掻痒感がある10, 11。学習障害,自閉症,てんかんの小児を対象とした最大規模のプラセボ対照試験12-14および最新のミニタブレット試験(PedPRM)では,治療群にプラセボ群を上回る副作用は認められず,特にけいれんの悪化はみられなかった。コクラン・レビューでは,メラトニンを投与されたてんかん患者のけいれん発作の頻度上昇は認められなかったとされている15。性的成熟についても,最近の文献で検出可能な影響は認められなかった16

用量

小児におけるメラトニンの生理学的用量と薬理学的用量のカットオフ値は500μg未満である。生理学的用量での受容体占有率は極めて高い可能性がある。RCTや公表された症例集積研究で使用された用量の幅は極めて大きく,500μg-5mgの間が最も多いが,これ以下の低用量,これ以上の高用量も使用されている。メラトニンの至適用量は不明であり,用量と反応の直接的相関を示すエビデンスはない17。1件の大規模RCTでは,対象となった小児の18%が500μgの用量で反応したが,その他の被験者でははるかに高用量(12mg)を必要とするとみられた14。5mgを超える用量では,メラトニンの睡眠相を変える作用よりも鎮静作用を誘発する可能性が高い。重度の両側性脳損傷がある患児では,この作用が必要かつ有用な場合もありうる。

唾液中のメラトニン測定は高価であるが,(外因性メラトニンが最も奏効する可能性がある)睡眠相後退が非常に顕著な患児や,メラトニンの代謝が遅く,(特に高用量投与時において)血清中濃度が日中に高くなり最終的に効果が損なわれる患児を特定する際に有効な方法である。

メラトニン使用の推奨事項については図5.3を参照のこと。

図5.3 メラトニン使用における推奨事項の要約


<編集協力者コメント>

本邦では,メラトニン(メラトベル®)が,小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善を保険適用として使用可能である。フルボキサミンマレイン酸塩を投与中の患者では禁忌であることに注意が必要である。

(多田 光宏)

参照文献
  1. Gringras P. When to use drugs to help sleep. Arch Dis Child 2008; 93:976–981.
  2. Macchi MM, et al. Human pineal physiology and functional significance of melatonin. Front Neuroendocrinol 2004; 25:177–195.
  3. Gringras P, et al. Efficacy and safety of pediatric prolonged-release melatonin for insomnia in children with autism spectrum disorder. J Am Acad Child Adolescent Psychiatry 2017; 56:948–957.e944.
  4. Williams Buckley A, et al. Practice guideline: treatment for insomnia and disrupted sleep behavior in children and adolescents with autism spectrum disorder: report of the Guideline Development, Dissemination, and Implementation Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology 2020; 94:392–404.
  5. Arendt J, et al. Melatonin and its agonists: an update. Br J Psychiatry 2008; 193:267–269.
  6. Ferracioli-Oda E, et al. Meta-analysis: melatonin for the treatment of primary sleep disorders. PLoS One 2013; 8:e63773.
  7. Sheldon SH Pro-convulsant effects of oral melatonin in neurologically disabled children. Lancet 1998; 351:1254.
  8. Maestroni GJ The immunoneuroendocrine role of melatonin. J Pineal Res 1993; 14:1–10.
  9. Sutherland ER, et al. Elevated serum melatonin is associated with the nocturnal worsening of asthma. J Allergy Clin Immunol 2003; 112:513–517.
  10. Chase JE, et al. Melatonin: therapeutic use in sleep disorders. Ann Pharmacother 1997; 31:1218–1226.
  11. Jan JE, et al. Melatonin treatment of sleep-wake cycle disorders in children and adolescents. Dev Med Child Neurol 1999; 41:491–500.
  12. Coppola G, et al. Melatonin in wake-sleep disorders in children, adolescents and young adults with mental retardation with or without epilepsy: a double-blind, cross-over, placebo-controlled trial. Brain Dev 2004; 26:373–376.
  13. Garstang J, et al. Randomized controlled trial of melatonin for children with autistic spectrum disorders and sleep problems. Child Care Health Dev 2006; 32:585–589.
  14. Gringras P, et al. Melatonin for sleep problems in children with neurodevelopmental disorders: randomised double masked placebo controlled trial. BMJ 2012; 345:e6664.
  15. Brigo F, et al. Melatonin as add-on treatment for epilepsy. Cochrane Database Syst Rev 2016:Cd006967.
  16. Malow BA, et al. Sleep, growth, and puberty after 2 years of prolonged-release melatonin in children with autism spectrum disorder. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 2020:S0890-8567(0820)30034-30034.
  17. Sack RL, et al. Sleep-promoting effects of melatonin: at what dose, in whom, under what conditions, and by what mechanisms? Sleep 1997; 20:908–915.