モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

アルコール依存症

アルコール

アルコールの単位

英国では,アルコールの1単位は,エタノール10mLまたは1%のアルコール1Lである。例えば,アルコール10%のワイン250mLは2.5単位に相当する。

アルコールの過剰な摂取量

英国保健省(DoH)は飲酒による健康リスクを最小化するため,以下の勧告と推奨を行った1

  • 男女共に,日常的に14単位/週を超える量を摂取しない。
  • 上記の量を3日以上に分けて摂取することで有害性を最小化できる。
  • 一度に大量に飲酒することは,有害,傷害,事故のリスクを伴う。
  • 摂取量に関わらず,アルコールは咽喉癌,口腔癌,乳癌等多くの疾患と関連している。
  • 妊娠中には完全に安全な飲酒量は存在せず,胎児に悪影響を及ぼすリスクを減らすためにはアルコールの予防的回避が推奨される。
評価および構造化された簡単な介入

有害な飲酒とアルコール依存症の診断,評価,管理に関する英国のNICEガイドラインでは,問題のある飲酒者に遭遇しうる施設で働くスタッフは,有害な飲酒とアルコール依存症を特定し評価する能力を持つべきであると推奨している2。さらに,有害飲酒の低減に関するNICE公衆衛生ガイドラインでは,アルコールに関連する問題のリスクが高い人への介入として,FRAMES原則[フィードバック(Feedback),責任(Responsibility),助言(Advice),選択肢(Menu),共感(Empathy),自己効力感(Self-efficacy)]に基づく構造化された簡単な助言のセッションが有用であると推奨している3

飲酒量が許容範囲を超えている場合は,より詳細な臨床評価が必要である。状況に応じて,臨床評価には以下を含める。

  • 毎日の飲酒量と最近の飲酒パターンを含む飲酒歴
  • アルコール離脱エピソードの既往
  • 最後に飲酒した日時
  • 家族や介護者による過去の情報
  • 薬剤(違法薬物および処方薬)の使用状況
  • 依存症と離脱症状の重症度
  • 身体・精神疾患の併存の有無
  • 認知機能検査を含む身体診察
  • 酒気検知器:呼気中の絶対アルコール濃度,およびアルコール濃度が上昇するか低下するか(誤って高く測定されることを避けるために,最後の飲酒から20分以上経過してから測定し,1時間後に再度測定する)
  • 臨床検査:全血球数(FBC),尿素と電解質(U&E),肝機能検査(LFT),国際標準化比(INR),プロトロンビン時間(PT),尿中薬物スクリーニング

構造化評価ツールとしては,以下が推奨される2

  • アルコール使用障害同定スクリーニング(AUDIT4 質問票は10項目からなり,リスクが上昇している場合のスクリーニングに有用である。質問の1-3は飲酒量,4-6は依存症の徴候および症状,7-10は有害なアルコールの使用に関連する行動と症状に関する質問である。各質問を0-4点で評価し,最高合計点は40点である。8点以上の場合は危険あるいは有害なアルコール使用であることが示唆される。危険な飲酒とは有害となるおそれのある飲酒量,有害な飲酒とはすでに精神や身体の健康に問題が起きている飲酒量のことである。
  • アルコール依存症重症度質問票(SADQ)5。20項目からなるさらに詳細な質問票で,各項目を0-3点で評価し,最高合計点は60点である。

アルコール依存症の重症度

軽度=SADQスコア<15

中等度=SADQスコア15-30

重度=SADQスコア>30

アルコール離脱

アルコール依存症の人は,体内にアルコールが常在している状態に中枢神経系が適応している(神経適応)。血中アルコール濃度(BAC)が突然下がると,脳は過剰に興奮してしまい,離脱症候群が引き起こされてしまう(表4.1)。

表4.1 軽度および重度のアルコール離脱症状と合併症

軽度のアルコール離脱症状 最後の飲酒から発症までの時間 その他の情報
  • 激越/不安/易刺激性
  • 手,舌,瞼の振戦
  • 発汗
  • 悪心/嘔吐/下痢
  • 発熱
  • 頻脈
  • 収縮期高血圧
  • 全身倦怠感
3-12時間後に発症
24-48時間後にピーク
最長14日間持続
  • 症状は非特異的
  • ある症状がないことによって離脱の可能性を除外することはできない
  • 血中アルコール濃度がゼロに達する前に発症する場合がある
管理
自然治癒する場合もあるが,適量のベンゾジアゼピン系薬剤や保存的治療によって緩和される。バイタルサインのモニタリングを行う。離脱評価スケールを使用する。
推奨されるベンゾジアゼピン系薬剤の各種レジメンは以下を参照。
重度のアルコール離脱症状-合併症 最後の飲酒から発症までの時間 その他の情報
全身けいれん発作 12-18時間
  • 血中アルコール濃度がゼロに達する前に発症する場合がある

管理

  • 離脱治療において初めてけいれん発作が起こった場合には,器質性疾患や特発性てんかんの可能性を除外するために検査を行う必要がある。
  • アルコール離脱けいれんに対する薬剤の予防効果を評価した研究のメタ解析では,ベンゾジアゼピン系薬剤,特にジアゼパムのような長時間作用型の薬剤がけいれん発作の新たな発生を有意に抑制することが示された6, 7
  • けいれん発作の既往がある患者では,長時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤の予防投与が推奨される8
  • 一部の抗けいれん薬はベンゾジアゼピン系薬剤と同様に効果がある。いくつかの施設では,未治療のてんかん患者や,ベンゾジアゼピン系薬剤の負荷投与を適切に行ってもけいれん発作がみられた患者には,カルバマゼピンの負荷投与を推奨している6
  • フェニトインを単剤投与もしくはベンゾジアゼピン系薬剤と併用してもアルコール離脱けいれんを予防できない9。アルコール離脱けいれんを予防するために,抗けいれん薬の投与を長期間継続する必要はない9
重度のアルコール離脱症状-合併症 最後の飲酒から発症までの時間 その他の情報と管理

振戦せん妄(本Chapterの別項を参照)

  • 意識混濁/錯乱
  • 特に視覚および触覚の鮮明な幻覚
  • 激しい振戦

他の臨床症状としては,自律神経過活動(頻脈,高血圧,発汗,発熱),被害妄想,激越,不眠がある
前駆症状として,夜間の不眠症,落ち着きのなさ,恐怖,錯乱等がみられる
危険因子:重度のアルコール依存症,医学的介入なしでの自己解毒,離脱治療のための複数回の入院,併存疾患,振戦せん妄やアルコール離脱けいれんの既往,カリウム低値,マグネシウム低値,ビタミンB1欠乏,離脱に対する治療不十分
他の原因によるせん妄とは治療法が異なるため,識別が重要である。振戦せん妄(DT)には高用量のベンゾジアゼピン系薬剤が必要であり,抗精神病薬の使用には十分な注意が必要である

3-4日間
(72-96時間)
  • アルコール離脱のため入院した患者の3-5%に生じる
  • 医学的緊急事態である
  • 未治療の場合の死亡率は10-20%である

管理

  • 救急疾患であり,総合医療機関への速やかな搬送が必要となる9。高度治療室への入室が望ましい10, 11
  • 患者を観察しなければならない(本Chapterの「振戦せん妄」の項を参照)。
アルコール離脱に対する薬理学的治療
(アルコール解毒)

アルコール離脱が適切に管理されないと,重大な病態や死亡につながるおそれがある。

以下のような場合は薬理学的治療が必要となると考えられる。

  • >15単位/日の飲酒を定期的に行っていた。
  • AUDITスコアが20を超える。
  • 著しい離脱症状の既往がある。

症状の評価尺度は, 離脱症状を管理するために必要な薬理学的治療の用量を決定するうえで有用である。臨床アルコール離脱評価スケール改訂版(CIWA-Ar,図4.1 参照)12 および簡易アルコール離脱スケール(SAWS,表4.2 参照)13 はいずれも10項目からなり,約5分で評価を完了できる。CIWA-Arは客観的な評価尺度であり,SAWSは自記式ツールである。CIWA-Arスコアが10を超えるか,SAWSスコアが12を超える場合は迅速なアルコール離脱治療が必要である。

図4.1 臨床アルコール離脱評価スケール改訂版(CIWA-Ar)12

CIWA-Arには著作権がなく,自由に複製できる。

表4.2 簡易アルコール離脱スケール(SAWS)13

  なし(0) 軽度(1) 中等度(2) 重度(3)
不安        
睡眠障害        
記憶障害        
悪心        
落ち着きのなさ        
振戦(震え)        
混乱        
発汗        
不機嫌        
動悸        

在宅での解毒は通常,次の場合に可能である

  • 解毒経過期間を通じて,理想としては1日24時間監督できる介護者がいる。
  • 患者,介護者,かかりつけ医の間で治療計画について合意が得られている。
  • 患者,介護者,かかりつけ医の間で緊急事態対応計画について合意が得られている。
  • 患者は解毒経過期間を通じて毎日薬を受け取りに行き,定期的に専門家による評価を受けることができる。
  • 心理社会的サポートを含めた,外来や地域社会での断酒プログラムがある。

在宅での解毒は,患者が飲酒を再開したり合意された治療計画を守ることができなかったりする場合には中止すべきである。

次のような状況では入院での解毒が必要な可能性がある。

  • >30単位/日の飲酒を定期的に行っている。
  • SADQスコアが30を超える(重度の依存症)。
  • けいれん発作や振戦せん妄の既往がある。
  • 非常に若いまたは高齢の患者。
  • 現在,アルコールとベンゾジアゼピン系薬剤を使用している。
  • アルコール以外の物質も乱用している。
  • 精神疾患や身体疾患,学習障害,認知障害が併存している。
  • 妊娠している。
  • ホームレス,もしくは社会的支援がない。
  • 在宅での解毒に失敗している。

一定の状況では上記の場合でも在宅での解毒が臨床的に正当化される場合があるが(表4.3),明確な理由があり,経験豊富な臨床医が判断した場合に限るべきである。

表4.3 アルコール離脱の治療介入法のまとめ

重症度 保存的治療/医学的治療 神経適応を元に戻す薬物療法 ビタミンB1の補給 治療場所
軽度
CIWA-Ar ≦ 10
中等度-高度の保存的治療を行う。医学的治療はあまり必要ない ほとんど必要ない。簡単な治療のみを行う(以下を参照) 栄養状態に問題がなければ経口投与でよい 自宅
中等度
CIWA-Ar ≦ 15
中等度-高度の保存的治療を行う。医学的治療はあまり必要ない ほとんど必要ない。対症療法のみ 栄養不良の患者ではPabrinex筋注を行い,その後は経口で補給する 自宅か地域のチーム
重度
CIWA-Ar>15
高度の保存的治療と医学的モニタリングを行う 対症療法と置換療法(クロルジアゼポキシド)が必要になってくる Pabrinex筋注を行い,その後は経口で補給する 地域のチームか病院
CIWA-Ar>10で,さらにアルコール関連の医学的問題が併存する場合 高度の保存的治療と専門医による医学的治療を行う 通常は対症療法と置換療法が必要となる Pabrinex筋注を行い,その後は経口で補給する 病院

ベンゾジアゼピン系薬剤は,アルコール離脱の第一選択である。ベンゾジアゼピン系薬剤はアルコールと交叉耐性があり,抗けいれん作用もある。ベンゾジアゼピン系薬剤の使用は,NICEガイドライン2, 14,コクランのシステマティック・レビュー7 ,英国精神薬理学会(BAP)のガイドライン9 で支持されている。 ビタミンB1の非経口投与やその他のビタミンの補充は,ウェルニッケ-コルサコフ症候群をはじめとするビタミン関連の精神神経的病態の予防および/または治療の補助療法として重要である。

クロルジアゼポキシドは比較的依存性が低いと考えられているので,英国では多くの医療機関で大部分の患者に使用されているベンゾジアゼピン系薬剤である。ジアゼパムを使用する施設もある。肝機能障害がある場合は,oxazepamやロラゼパム等,短時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤が治療選択肢となる可能性がある。

離脱治療に使用される投与レジメンには以下の3つがある。すなわち,固定用量レジメン(非専門施設で最も一般的),症状に合わせた治療レジメン(ベンゾジアゼピン系薬剤の投与量は減るが,アルコール離脱の管理について専門知識を持ったスタッフがいる場合に限って使用),初回負荷投与レジメン(あまり使用されず,重度のアルコール離脱に限って使用)2, 9。 離脱治療は,血中アルコール濃度(BAC)が非常に高い場合や,上昇し続けている場合には開始すべきではない。過鎮静/呼吸抑制の有無をモニタリングする。

固定用量レジメン

固定用量レジメン(表4.4表4.5)は,在宅または専門医がいない医療施設への入院もしくは施設入所環境での,合併症のない患者に対する治療に使用できる。アルコール依存症の重症度[病歴,飲酒日の1日あたりの単位数,アルコール依存症重症度質問票(SADQ)の点数]を評価した後にベンゾジアゼピン系薬剤の用量を選択し,投与を開始する。クロルジアゼポキシドの場合は,大体の目安として現在の飲酒量に基づいて開始用量を推定する。例えば20単位/日の飲酒の場合,開始量は20mgを1日4回とする。その後,5-10日かけて用量を徐々に0まで減量する。アルコール離脱症状は,妥当性が確認されているCIWA-Ar12,SAWS13等の評価尺度を使用してモニタリングすべきである。

軽度のアルコール依存症では,ごく少量のクロルジアゼポキシドが通常必要となるが,薬剤を使用せずに管理することもできるだろう。

中等度のアルコール依存症での典型的なレジメンでは,クロルジアゼポキシド10-20mgを1日4回から開始し,5-7日かけて徐々に減量していく。治療期間としては5-7日間が適切であり,これより長い治療が有用または必要であることはほとんどない。その日の薬剤を渡す前に,離脱の状況やBACを連日モニタリングすることが望ましい。このため,在宅で薬物療法によりアルコールの離脱を行う場合は,月曜日から開始して5日間続けるスケジュールとすべきであろう。

重度のアルコール依存症では,生命を脅かす合併症の著しいリスクがあるため,通常は入院での離脱治療が必要となることが多い。しかし,実際的な在宅でのアプローチが必要となる状況が稀にある。そのような状況では経験豊富な臨床医が,在宅での離脱治療を行う決定を患者と介護者の双方に対して明確に伝えなければならない。初めの2-3日間はモニタリングを集中的に連日行うことが勧められる。週末には特別な調整が必要な場合もある。

患者がアルコールで酩酊している場合は薬剤の処方はすべきでない。その場合には,酔いが醒めたらできるだけ早く患者の観察を行うべきである。このような患者群では,ベンゾジアゼピン系薬剤を7-10日(依存症が非常に重度の場合や以前の解毒時に合併症が生じた場合には,時としてより長期間)かけて徐々に減らす必要があるだろう。

表4.4 中等度のアルコール依存症:クロルジアゼポキシドの固定用量レジメンの例

  1日の総量(mg)
1日目 20mgを1日4回 80
2日目 15mgを1日4回 60
3日目 10mgを1日4回 40
4日目 5mgを1日4回 20
5日目 5mgを1日2回 10

表4.5 重度のアルコール依存症:クロルジアゼポキシドの固定用量レジメンの例

  1日の総量(mg)
1日目
(初めの24時間)
40mgを1日4回+
頓用40mg
200
2日目 40mgを1日4回 160
3日目 30mgを1日4回 120
4日目 25mgを1日4回 100
5日目 20mgを1日4回 80
6日目 15mgを1日4回 60
7日目 10mgを1日4回 40
8日目 10mgを1日3回 30
9日目 5mgを1日4回 20
10日目 10mgを就寝前 10
症状に合わせた治療レジメン

このレジメンは,アルコール依存症治療専門医がいる病院や施設に入院または入所して離脱治療を行う場合にのみに使用する。この方法では定期的なモニタリング(例:脈拍,血圧,体温,意識レベル)が必要である。CIWA-ArやSAWS等の妥当性が確認された評価尺度により評価された離脱症状がみられる場合にのみ,薬剤を投与する。症状に合わせた治療は通常,合併症の既往がない患者に使用される。症状に合わせた典型的な治療レジメンでは,クロルジアゼポキシド20-30mgを必要に応じて1時間毎に投与する。1日あたりの総投与量は一般的に2日目から減量することに留意する。この方法は通常24-48時間までとし,その後は患者毎に設定した固定用量レジメンに切り替える。場合によっては,最初の24時間を超えてこの治療レジメンを延長する必要があるかもしれない[例:振戦せん妄(DT)がみられる場合]。

クロルジアゼポキシドの症状に合わせた治療レジメンの例2

1-5日目:症状に基づきクロルジアゼポキシド20-30mgを必要に応じて最大で1時間毎に投与する。

ウェルニッケ脳症

ウェルニッケ脳症は,ビタミンB1欠乏で生じる急性の精神神経疾患である。アルコール依存症におけるビタミンB1欠乏は,摂食量と吸収の両方の低下により二次的に発生する。

以下はアルコール依存症におけるウェルニッケ脳症の危険因子である14

  • 急性離脱症状
  • 栄養不良
  • 非代償性肝疾患
  • 救急科(ED)受診
  • 併存疾患のための入院
  • ホームレス
症状

古典的3徴は眼筋麻痺,運動失調,意識混濁だが,これらの症状がウェルニッケ脳症で認められることは稀であり,この症候群は認識されているよりずっと多い。アルコール解毒中の患者で次の徴候が現れた場合には,ウェルニッケ脳症と仮診断すべきである。

  • 運動失調
  • 低体温
  • 低血圧
  • 意識混濁
  • 眼筋麻痺/眼振
  • 記憶障害
  • 意識障害/昏睡

また,栄養不良の既往,最近の体重減少,嘔吐または下痢,末梢神経障害に注意が必要である15

ビタミンB1の予防投与

精神神経系の合併症がなく,食事を適切に摂取しているような,ウェルニッケ脳症のリスクが低い患者では,アルコールの離脱治療期間や飲酒をしている期間は1日300mg以上のビタミンB1を経口投与する9

注意:ビタミンB1は身体がグルコースを利用するために必要となる。ビタミンB1が欠乏している患者にグルコースを負荷すると,ウェルニッケ脳症を起こす可能性がある。

意識障害のあるすべての患者で,グルコース投与前にビタミンB複合製剤(英国ではPabrinex)を非経口投与する。

入院で解毒する患者には,予防のためのビタミンB1の非経口投与が一般に勧められるが2, 9, 14, 16, 17,最適な用量,頻度,投与期間に関する無作為化比較試験(RCT)によるエビデンスは不十分である。ガイダンスは「専門家の意見」に基づいたものであり9 ,標準的には1日につき高力価筋注剤Pabrinex 1組(ビタミンB1 250mg含有)を5日間投与し,その後はビタミンB1および/またはビタミンB複合製剤を必要に応じて(食事が不適切である場合や飲酒を再開した場合)経口投与する9。すべての入院患者は最低限この治療を受けるべきである。

ビタミンB1の筋肉内注射(IM)は静脈注射(IV)よりもアナフィラキシー反応の発現率が低く,Pabrinexアンプル500万組あたり1件と,アナフィラキシーの特別な警告がない多くの頻用薬よりもはるかに低い。しかし,このリスクが非経口製剤の使用に対する懸念をもたらしており,(十分な予防効果のない)経口剤の不適切な使用につながっている。ウェルニッケ脳症のリスクを考えると,リスク・ベネフィット比は非経口製剤の方がはるかに優れている9, 16, 18。ビタミンB1の非経口製剤を使用する場合は,アナフィラキシー治療に対応できる設備が必要である19

ウェルニッケ脳症が疑われる場合には,ビタミンB1を静注できる医療施設に患者を搬送する。ウェルニッケ脳症の治療を行わないとコルサコフ症候群(永続的な記憶障害,作話,意識混濁,人格変化)に進行する。

ウェルニッケ脳症が疑われるか確定した患者の治療(急性期病棟)

高力価静注Pabrinexを,少なくとも2組(すなわち4アンプル)を1日3回,3-5日間静注し,次いで2アンプルを1日1回,3-5日間以上静注する2, 9(それ以上の反応がみられなくなるまで投与を継続する)。

身体症状の治療

離脱治療中には身体症状がよくみられる。推奨される簡単な治療法を表4.6に示す。

表4.6 身体症状の治療

症状 推奨される治療法
脱水 水分と電解質平衡を維持するために適切な水分摂取を行う。脱水によって生命を脅かす不整脈が生じることがある
疼痛 paracetamol(アセトアミノフェン)
悪心・嘔吐 メトクロプラミド10mgまたはプロクロルペラジン5mgを4-6時間毎
下痢 diphenoxylateとアトロピン(Lomotil)もしくはロペラミド
皮膚掻痒 アルコール性肝疾患がない場合でもよくみられる。経口抗ヒスタミン薬を使用

再発の予防

急性アルコール離脱症候群の治療が終了したら,ベンゾジアゼピン系薬剤は継続して使用しない。英国では,アカンプロサートおよび監視下でのジスルフィラム投与がアルコール依存症の治療として承認されており,心理社会的治療と併用される場合もある2 。治療の導入は専門医によって行われるべきである。12週間後以降はかかりつけ医による処方への移行が適切かもしれないが,専門医による治療も継続することがある(分担治療)。naltrexoneも中等度-重度のアルコール依存症の補助治療として推奨されている2 。しかし,英国ではアルコール依存症の治療薬として販売承認を取得していないため,治療開始前にインフォームドコンセントを得て同意文書を作成する必要がある。

アカンプロサート

アカンプロサートは合成タウリン類似物で,グルタミン酸作動性N-メチル-D-アスパラギン酸受容体の拮抗薬として作用し,またγ-アミノ酪酸(GABA)作動性の機能を増加させる。断酒を維持するための治療必要例数(NNT)は9-11例9 とされている。治療効果は最長12ヵ月間持続するが,最も高い治療効果が認められるのは6ヵ月目であり,(プラセボに対する)飲酒行動再開のリスク比は0.83である2, 20, 21。アカンプロサートは断酒を達成したらすぐに開始すべきである[英国精神薬理学会(BAP)コンセンサスガイドラインでは,アカンプロサートは神経保護作用を有する可能性があるので「解毒中」に開始することを推奨9 ]。NICEでは定期的に(1ヵ月に1回)監視しながら最長6ヵ月継続することを推奨している2。製品概要(SPC)ではアカンプロサートを1年間継続することを推奨している。

アカンプロサートの忍容性は比較的良好であるが,副作用として下痢,腹痛,悪心,嘔吐,掻痒等がある2 。重度の腎不全や肝不全では禁忌なので,投与開始前にベースライン時の腎機能および肝機能を検査すべきである。妊娠中もしくは授乳中の患者には使用すべきではない。

 アカンプロサート:NICE臨床ガイドライン115,20112, 20

アカンプロサートは,中等度-重度のアルコール依存症患者における再発予防として投与すべきであり,心理社会的治療と併用する。最長で6ヵ月間処方し,患者が有益性を感じて継続して服用することを希望する場合はさらに継続する。用量は,体重60kg以上の場合は1,998mg/日(666mgを1日3回)で,60kg未満の場合には1日1,332mgとする。投与開始後4-6週間でも飲酒が止められない場合は治療を中止する。

naltrexone

オピオイド遮断がアルコール摂取後のドパミン活性の増加を防ぎ,報酬効果を低下させる。naltrexoneは非選択的オピオイド受容体拮抗薬で,重度飲酒の再発を有意に減少させる2, 22。 初期の試験での投与量は50mg/日であったが,最近米国で行われた試験では100mg/日を使用している。英国での通常の用量は50mg/日であり,25mgで2日間の投与を試行して副作用を確認する。

naltrexoneの忍容性は良好であるが,副作用として悪心(特に治療初期),頭痛,腹痛,食欲減退,倦怠感等がある。naltrexone投与を開始する前に,包括的な医学的評価とともにベースライン時の腎機能および肝機能の検査を行うべきである。naltrexoneは,飲酒を継続している患者や離脱治療を行っている患者でも開始することができる。最適な治療期間に関する明確なエビデンスはないが,6ヵ月程度の投与と,肝機能のモニタリングを含む経過観察の実施が適切と考えられる9

naltrexoneを使用している患者には,鎮痛薬としてオピオイド受容体作動薬を投与すべきではなく,非オピオイド系鎮痛薬を使用すべきである。オピオイド系鎮痛薬が必要な場合には,naltrexone中止後48-72時間で投与可能である。高用量のnaltrexoneでは肝毒性が報告されているため,急性肝不全では使用を避けるべきである23

 naltrexone:NICE臨床ガイドライン115,20112, 22

naltrexone(50mg/日)は,中等度-重度のアルコール依存症患者における再発予防として投与すべきであり,心理社会的治療と併用する。最長で6ヵ月間処方し,患者が有益性を感じて継続して服用することを希望する場合はさらに継続する。投与開始後4-6週間でも飲酒が止められない患者や,服用によって体調が悪くなる患者では治療を中止する。

コンプライアンスを改善するためにnaltrexoneの持効性注射剤が開発されており,副作用は経口製剤でみられるものと同様である24。 NICEでは,最初のエビデンスは期待できるものであったが,ルーチンとしての使用を推奨するほどではないと結論している。

ナルメフェン

ナルメフェンもオピオイド拮抗薬であり,アルコール依存症患者の飲酒量を減少させるための選択肢としてNICEで推奨されている2, 22。1件の間接的なメタ解析で,重度飲酒の軽減におけるnaltrexoneに対する優越性が示されている25。しかし,別のメタ解析ではナルメフェンには飲酒量減少に関して限定的な有効性しかなく,アルコール依存症の治療と再発予防における意義は十分に確立していないことが示唆されており,ナルメフェンの使用については意見が分かれている26

ジスルフィラム(アンタビュース)

ジスルフィラムはアルデヒド脱水素酵素を阻害することで,肝臓でのアルコールの完全な代謝を阻害する。これにより,有毒な中間代謝物であるアセトアルデヒドが蓄積され,アルコール-ジスルフィラム反応を引き起こす。

軽度のアルコール-ジスルフィラム反応
  • 顔面潮紅
  • 発汗
  • 悪心
  • 過換気
  • 呼吸困難
  • 頻脈
  • 低血圧
禁忌
  • 24 時間以内のアルコール摂取
  • 心不全
  • 冠動脈疾患
  • 高血圧
  • 脳血管障害
  • 妊娠
  • 授乳
  • 肝疾患
  • 末梢神経障害
  • 重度精神疾患
重度のアルコール-ジスルフィラム反応
  • 急性心不全
  • 心筋梗塞
  • 不整脈
  • 徐脈
  • 呼吸抑制
  • 重度低血圧

したがって,ジスルフィラムによる治療効果は,ジスルフィラムとアルコールとの不和合性によりアルコール嫌悪が生じることで得られる。監視下での投与はコンプライアンスを最適化し,有効性に寄与する。

不耐性の強度は,アルコール摂取量とジスルフィラム用量の両方に依存する。しかし,ジスルフィラムによる治療効果の大部分は,薬理作用自体ではなく嫌悪反応を予測する心理からくるものだと考えられている。1,000mgを超える用量では突然死の発生率が上昇する27。これを念頭に置いて,高用量のジスルフィラム処方の意義を慎重に検討しなければならない。

初回用量は800mgで,その後は100-200mg/日まで減らして維持量とする。アルコールとコカインの依存症が併存している場合の初回用量は,500mg/日が用いられる。よくみられる副作用は口臭である。黄疸(肝毒性の稀な合併症)が急に生じた場合は,ジスルフィラムをすぐに中止して緊急医学的処置を行える施設を受診するよう患者に伝える。

ジスルフィラムについては,アカンプロサートやnaltrexoneほど強力なエビデンスは得られていない2 。英国では,NICEは「アカンプロサートまたはnaltrexoneが適さない,またはジスルフィラムを具体的に希望し,断酒維持を目標とする中等度-重度のアルコール依存症患者に対する第二選択として」ジスルフィラムの使用を推奨している2

 ジスルフィラム:NICE臨床ガイドライン115,20112

ジスルフィラムは,断酒を希望しているがアカンプロサートやnaltrexoneが適さない患者に対して,心理的介入との併用で考慮すべきである。治療は,最後の飲酒から24時間以上経過してから,家族または介護者の監視下で開始すべきである。最初の2ヵ月間は2週間毎,その後4ヵ月間は1ヵ月毎にモニタリングを行うことが推奨される。6ヵ月経過したら,6ヵ月毎の間隔で医学的モニタリングを継続する。ジスルフィラム服用中はアルコールを摂取してはならない。

バクロフェン

バクロフェンはGABA-B作動薬であり,アルコール依存症への使用は承認されていないが,一部の臨床医が使用している。最近のメタ解析ではバクロフェンの効果が示されず,アルコール使用障害に対する第一選択としての使用は支持されなかった28。バクロフェンでは,抑うつ,回転性めまい,傾眠,しびれ感,筋強剛等の副作用の発現率がより高かった。

抗けいれん薬

プラセボと比較して,飲酒日あたりの飲酒量が少なく,重度飲酒の割合が平均で低いことと有意に関連していたものの29,現時点で,アルコール依存症の治療薬として抗けいれん薬の臨床使用を支持する十分なエビデンスはない。ほとんどの研究がトピラマートを対象としたものである。ガバペンチン30,バルプロ酸,レベチラセタムに関する研究は少ない。

妊娠と飲酒

妊娠中のアルコール摂取が胎児に悪影響を及ぼす可能性があることを示すエビデンスがある。英国保健省(DoH)は,女性は妊娠中に飲酒すべきでないと勧告している1 。妊娠中は1-2単位/日の飲酒量でも,早産児,低出生体重児または在胎不当過小児のリスクが上昇する可能性がある。NICEガイドラインは,2018年12月に,主席医務官(CMO)によるガイドラインを参照する形で変更された。

アルコール依存症で離脱症状がある妊婦は,理想的には入院して薬物療法による解毒を行うべきである。どのタイミングで解毒を行うかは,各妊娠期間における飲酒継続と胎児へのリスクを考慮して評価すべきである9 。クロルジアゼポキシドは大きなリスクは引き起こさないといわれているが,用量依存性の催奇形性が観察されている9 。英国のTeratology Information Serviceは,アルコールの解毒を必要とする妊婦に対しては継続的な経過観察が望ましいと医療従事者に向けて勧告している31。専門家のアドバイスを必ず求めるべきである(Chapter 7の妊娠に関する項を参照)。妊婦を対象とした再発防止目的での薬物療法の評価は行われていない9

小児・青年期

小児および若年者(10-17歳)では,NICE臨床ガイドライン115,20112 に従って評価すべきである。

アルコール依存症で薬物療法を必要とする若年者は少ないと考えられるが,この年齢層の依存症では入院閾値を低くすべきである。離脱治療としてクロルジアゼポキシドを使用する場合は用量を調節する必要があるかもしれないが,離脱管理の一般的な原則は成人の場合と同様である。すべての若年患者には,身体的,精神的健康の問題を特定するためにルーチンとして綿密なスクリーニングを行う。アカンプロサート,naltrexone,ジスルフィラムは16-19歳の患者に使用する場合のエビデンスベースが増えてきているが9 ,この年齢層ではnaltrexoneが最も支持されている32, 33

高齢者

高齢者に対するアルコール離脱の薬物療法では入院閾値を低くすべきである2 。この場合もベンゾジアゼピン系薬剤が第一選択であるが,より低い用量を処方する必要があるかもしれず,短時間作用型の方が好ましい場合もある9 。 アルコール使用障害があるすべての高齢者に対し,身体的,精神的健康の問題を特定するためにルーチンの身体診察を綿密に行う。高齢者のアルコール使用障害に対する薬物療法のエビデンスは限られている。

アルコール使用障害と他の薬物使用障害が併存する場合

アルコール使用障害と他の薬物使用障害が併存する場合には,両方の病態を積極的に治療する2

アルコール依存症とベンゾジアゼピン依存症の併存

ベンゾジアゼピン系薬剤はクロルジアゼポキシドまたはジアゼパムのどちらか1剤を使用するのが最良の管理法である。開始用量は,アルコール離脱治療に必要な量と患者が依存しているベンゾジアゼピン系薬剤の典型的な1日あたりの等価用量を考慮する2 。入院治療は2-3週間(これより長くなることもある)かけて行うべきである2

アルコール依存症とコカイン使用の併存

アルコール依存症とコカイン依存症が併存している場合,男性ではnaltrexone 150mg/日でコカインとアルコールの使用が減ったが,女性には無効であった34

アルコール依存症とオピオイド依存症の併存

両方の依存症を治療すべきであり,この2つの離脱では死亡率が高くなるので注意する。

アルコール依存症とニコチン依存症の併存

個々の患者に喫煙を止めるように促す。プライマリケア等では禁煙について情報提供する。入院している患者では,アルコール離脱治療中にニコチンパッチ/吸入剤を使用する。紙巻きタバコ喫煙の代替として,より安全な電子タバコの使用を必ず勧める。

精神疾患の併存

アルコール使用障害患者では精神疾患(特に不安とうつ病)がよくみられる。英国公衆衛生庁は,アルコール使用障害と精神疾患の併存を「例外ではなくむしろ一般的」で「全員で立ち向かうべき問題」であり,「どのルートからでも支援につなげるべき」として,それぞれの支援機関が協調して効果的かつ柔軟なアプローチを行うことを奨励している35

アルコール乱用を含めた物質乱用を理由として,以下の支援から決して患者を除外すべきではない。

  • 救急精神科支援
  • 解毒完了後の気分/不安/パーソナリティ障害支援
うつ病

アルコール離脱中は抑うつ症状と不安症状がよくみられるが,3-4週間断酒を続けると通常これらの症状は減少する。メタ解析では,アルコール使用障害患者の抑うつ症状の軽減には種々の薬理学的作用を持つ抗うつ薬(三環系のイミプラミンやトリミプラミン)の方が選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(例:fluoxetine,セルトラリン)よりも有効であるが,抗うつ薬の効果はさほどでないことが示唆されている2, 9, 36, 37。断酒を始めてから最低1週間以降にうつ病が診断された場合は,アルコール離脱による情動症状を呈する患者が結果的に除外され,抗うつ薬の効果がより高かった。うつ病は,物質誘発性というより独立した障害であることを示す,より強力なエビデンスがある36。プラセボ効果が比較的大きいために治療効果が覆い隠され,実際にどの程度の改善が薬剤によるものなのかが明らかにされていないため,より大規模な無作為化プラセボ対照試験を実施する必要がある。三環系抗うつ薬には心毒性や過量服薬による毒性があるため,肯定的なエビデンスがあるものの実臨床では推奨されない。

再発を予防するための薬剤は,抗うつ薬と組み合わせて検討すべきである。Pettinatiら38 は,セルトラリン(200mg/日)とnaltrexone(100mg/日)を併用することでプラセボおよびそれぞれの単剤より良好な転帰が得られ,飲酒の転帰を改善して気分も良好になることを示している。一方,citalopramをnaltrexoneに追加しても有益性は認められなかった39

アカンプロサートとnaltrexoneに関する試験の二次解析では,以下のことが示唆されている。

  • アカンプロサートは,断酒促進作用を介して間接的に抑うつ症状に対して中程度の効果を示す。
  • アルコール依存症患者で抑うつ症状がみられる場合,naltrexoneと抗うつ薬の併用はいずれかの単剤よりも優れていると考えられるものの9 ,研究結果は一貫していない 39
双極性障害

双極性障害の患者は,不安症状を減少させるためにアルコールを使用する傾向がある。アルコール依存症と双極性障害が併存する場合は,双極性障害の治療ガイドラインで推奨されているように,種々の側面の治療が重要である。有益かもしれない情報としては,2件の試験において,リチウム単剤よりバルプロ酸ナトリウムをリチウムと併用した方が飲酒の転帰が良好で有益であった。しかし気分を改善するという点では,この併用療法がリチウム単剤よりも優れた効果を付与するわけではない[2012年の英国精神薬理学会(BAP)コンセンサスを参照のこと]9 。また,飲酒を継続している患者では,電解質平衡異常によってリチウムの毒性を引き起こす可能性があることに注意する。大量飲酒者ではリチウムは避けた方がよい。

双極性障害患者の飲酒量を減らすには,まずnaltrexoneを勧めるべきである9 。naltrexoneで効果がみられない場合は,アカンプロサートを提案する。naltrexoneとアカンプロサートのどちらも断酒の促進に効果がない場合はジスルフィラムを検討すべきであり,治療に伴うリスクについて患者に情報提供する。

不安

アルコール依存症患者の解毒時や離脱時,および断酒の初期に不安症状がよくみられる。アルコールは不安障害,特に社会不安を自分で治そうとする目的で使用されることが多い。アルコール依存症患者に不安症状がみられた場合,それがアルコール使用障害によるものか,別の独立した障害なのかを判断することは困難である。完全に評価するには,薬剤によるアルコール離脱や支持を伴う断酒を8週間まで行うことが必要である。薬剤によるアルコール離脱が不可能な場合は,不安障害の治療ガイドラインに従ってそれぞれの不安障害の治療を試みる。

ベンゾジアゼピン系薬剤は乱用や依存のリスクがあるため,その使用については議論がある9 。ベンゾジアゼピン系薬剤は依存症治療専門施設の評価後にのみ考慮すべきである。

1 件のメタ解析では,buspironeは不安症状の軽減には効果があるが,飲酒には効果がないことが示唆されている9, 40。また,いくつかの試験では,パロキセチン(60mg/日まで)は不安とアルコール依存症が併存している患者の社会不安の軽減においてプラセボより優れているが,飲酒には影響を及ぼさないことが示されている8, 40

心的外傷後ストレス障害とアルコール依存症が併存している患者では,naltrexoneとジスルフィラムいずれかの単剤投与もしくは併用により,プラセボと比較して飲酒の転帰が改善した。アルコール依存症の研究の事後解析では,アカンプロサートとバクロフェンは共に不安の軽減に有益であることが示されている[英国精神薬理学会(BAP)コンセンサスを参照のこと9 ]。したがって,これらの患者が禁酒できるようにし,再発を防止する薬剤を処方することが重要である。その後の不安は,関連するNICEガイドラインに従って治療する。

統合失調症

統合失調症でアルコール使用障害が併存している患者では,評価および特にnaltrexoneまたはアカンプロサートを使用したアルコール使用障害に的を絞った再発防止の治療を考慮すべきである。抗精神病薬の使用を最適化すべきであり9 ,クロザピンを考慮してもよい。しかし,どの抗精神病薬を第一選択として推奨するかについては十分なエビデンスがない。


<編集協力者コメント>

日本では,純アルコールに換算して20gをアルコールの1単位としており,5%ビールであれば500mLがそれに当たる。厚生労働省は,節度ある適度な飲酒は純アルコール換算で1日20g程度の飲酒とし,また女性や高齢者はさらに少なくすべきと推奨している。

(櫻井 準)

参照文献
  1. Department of Health and Social Care. UK chief medical officers’ guidelines on how to keep health risks from drinking alcohol to a low level. 2016; https://www.gov.uk/government/publications/alcohol-consumption-advice-on-low-risk-drinking.
  2. National Institute for Health and Clinical Excellence. Alcohol use disorders: diagnosis, assessment and management of harmful drinking and alcohol dependence. Clinical Guidance [CG115]. 2011 (last checked July 2019); https://www.nice.org.uk/guidance/cg115.
  3. National Institute for Health and Care Excellence. Alcohol-use disorders: prevention. Public health guideline [PH24]. 2010; (last checked July 2019). https://www.nice.org.uk/guidance/ph24.
  4. Babor T, et al. AUDIT: the alcohol use disorders identification test guidelines for use in primary care. 2nd edition. 2001; http://whqlibdoc.who.int/hq/2001/WHO_MSD_MSB_01.6a.pdf?ua=1.
  5. Stockwell T, et al. The severity of alcohol dependence questionnaire: its use, reliability and validity. Br J Addict 1983; 78:145–155.
  6. Minozzi S, et al. Anticonvulsants for alcohol withdrawal. Cochrane Database Syst Rev 2010; CD005064.
  7. Amato L, et al. Efficacy and safety of pharmacological interventions for the treatment of the Alcohol Withdrawal Syndrome. Cochrane Database Syst Rev 2011; CD008537.
  8. Brathen G, et al. EFNS guideline on the diagnosis and management of alcohol-related seizures: report of an EFNS task force. Eur J Neurol 2005; 12:575–581.
  9. Lingford-Hughes AR, et al. Evidence-based guidelines for the pharmacological management of substance abuse, harmful use, addiction and comorbidity: recommendations from BAP. J Psychopharmacol 2012; 26:899–952.
  10. NSW Government. Drug and alcohol withdrawal clinical practice guidelines. 2008; https://www1.health.nsw.gov.au/pds/ActivePDSDocuments/GL2008_011.pdf.
  11. Schuckit MA. Recognition and management of withdrawal delirium (delirium tremens). N Engl J Med 2014; 371:2109–2113.
  12. Sullivan JT, et al. Assessment of alcohol withdrawal: the revised clinical institute withdrawal assessment for alcohol scale (CIWA-Ar). Br J Addict 1989; 84:1353–1357.
  13. Gossop M, et al. A Short Alcohol Withdrawal Scale (SAWS): development and psychometric properties. Addict Biol 2002; 7:37–43.
  14. National Institute for Health and Clinical Excellence. Alcohol-use disorders: physical complications. Clinical Guidance [CG100] 2010 (last updated April 2017); https://www.nice.org.uk/guidance/cg100.
  15. Thomson AD, et al. Time to act on the inadequate management of Wernicke’s encephalopathy in the UK. Alcohol Alcohol 2013; 48:4–8.
  16. Thomson AD, et al. The Royal College of Physicians report on alcohol: guidelines for managing Wernicke’s encephalopathy in the accident and Emergency Department. Alcohol Alcohol 2002; 37:513–521.
  17. Day E, et al. Thiamine for prevention and treatment of Wernicke-Korsakoff Syndrome in people who abuse alcohol. Cochrane Database Syst Rev 2013; 7:CD004033.
  18. Thomson A, et al. Incidence of adverse reactions to parenteral thiamine in the treatment of Wernicke’s encephalopathy, and recommendations. Alcohol Alcohol 2019; 54:609–614.
  19. BNF Online. British national formulary. 2020; https://www.medicinescomplete.com/mc/bnf/current.
  20. Rösner S, et al. Acamprosate for alcohol dependence. Cochrane Database Syst Rev 2010; Cd004332.
  21. Donoghue K, et al. The efficacy of acamprosate and naltrexone in the treatment of alcohol dependence, Europe versus the rest of the world: a meta-analysis. Addiction 2015; 110:920–930.
  22. Rösner S, et al. Opioid antagonists for alcohol dependence. Cochrane Database Syst Rev 2010; Cd001867.
  23. Accord Healthcare Limited. Summary of Product Characteristics. Naltrexone Hydrochloride 50 mg Film-coated Tablets. 2014; https://www.medicines.org.uk/emc/medicine/25878.
  24. Krupitsky E, et al. Injectable extended-release naltrexone (XR-NTX) for opioid dependence: long-term safety and effectiveness. Addiction 2013; 108:1628–1637.
  25. Soyka M, et al. Comparing nalmefene and naltrexone in alcohol dependence: are there any differences? Results from an indirect metaanalysis. Pharmacopsychiatry 2016; 49:66–75.
  26. Palpacuer C, et al. Risks and benefits of nalmefene in the treatment of adult alcohol dependence: a systematic literature review and meta-analysis of published and unpublished double-blind randomized controlled trials. PLoS Med 2015; 12:e1001924.
  27. Mutschler J, et al. Current findings and mechanisms of action of disulfiram in the treatment of alcohol dependence. Pharmacopsychiatry 2016; 49:137–141.
  28. Minozzi S, et al. Baclofen for alcohol use disorder. Cochrane Database Syst Rev 2018; 11:Cd012557.
  29. Pani PP, et al. Anticonvulsants for alcohol dependence. Cochrane Database Syst Rev 2014; Cd008544.
  30. Kranzler HR, et al. A meta-analysis of the efficacy of gabapentin for treating alcohol use disorder. Addiction 2019; 114:1547–1555.
  31. UK Teratology Information Service (UKTIS). 2020; www.uktis.org.
  32. O’Malley SS, et al. Reduction of alcohol drinking in young adults by naltrexone: a double-blind, placebo-controlled, randomized clinical trial of efficacy and safety. J Clin Psychiatry 2015; 76:e207–e213.
  33. Miranda R, et al. Effects of naltrexone on adolescent alcohol cue reactivity and sensitivity: an initial randomized trial. Addict Biol 2014; 19:941–954.
  34. Pettinati HM, et al. Gender differences with high-dose naltrexone in patients with co-occurring cocaine and alcohol dependence. J Subst Abuse Treat 2008; 34:378–390.
  35. Public Health England. Better care for people with co-occurring mental health and alcohol/drug use conditions. A guide for commissioners and service providers. 2017; https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/625809/Co-occurring_mental_health_and_alcohol_drug_use_conditions.pdf.
  36. Agabio R, et al. Antidepressants for the treatment of people with co-occurring depression and alcohol dependence. Cochrane Database Syst Rev 2018; 4:Cd008581.
  37. Stokes PRA, et al. Pharmacological treatment of mood disorders and comorbid addictions: a systematic review and meta-analysis: traitement pharmacologique des troubles de L’humeur et des Dépendances Comorbides: une Revue Systématique et une Méta-Analyse. Can J Psychiatry 2020; 65:749–769.
  38. Pettinati HM, et al. A double-blind, placebo-controlled trial combining sertraline and naltrexone for treating co-occurring depression and alcohol dependence. Am J Psychiatry 2010; 167:668–675.
  39. Adamson SJ, et al. A randomized trial of combined citalopram and naltrexone for nonabstinent outpatients with co-occurring alcohol dependence and major depression. J Clin Psychopharmacol 2015; 35:143–149.
  40. Ipser JC, et al. Pharmacotherapy for anxiety and comorbid alcohol use disorders. Cochrane Database Syst Rev 2015; 1:Cd007505
その他の参照文献

Cheng HY, et al. Treatment interventions to maintain abstinence from alcohol in primary care: systematic review and network meta-analysis. BMJ 2020; 371:m3934