モーズレイ処方ガイドライン第14版（The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition）menu open
TOP統合失調症および関連する精神病抗精神病薬アリピプラゾール持効性注射剤

アリピプラゾール持効性注射剤

エビリファイ（Abilify）ブランド

アリピプラゾールでは，他のSGAのLAIでみられるプロラクチンや代謝に関連する副作用がないので，他のSGAから切り替える際の候補となる。プラセボ対照試験では，統合失調症の治療において急性期および長期的にも良好な効果が得られている1。FDAは，アリピプラゾールLAIを成人の双極I型障害の維持単剤療法にも承認している2。最初にアリピプラゾール経口剤10mg/日を14日間投与し，忍容性と反応を確認することが推奨されている。アリピプラゾールLAIの開始量を投与する際には，下記の2種類の投与法のいずれかに従う3。

1回注射による開始

開始日にアリピプラゾールLAI 400mg注射を1回行い，開始期のアリピプラゾール濃度を治療域に維持するために，アリピプラゾール経口剤10-20mg/日の投与を連続14日間継続する（合計28日間）。

または，

2回注射による開始

開始日にアリピプラゾールLAI 400mgを2つの異なる筋肉の別個の注射部位（臀部の2ヵ所，三角筋の2ヵ所，あるいは臀部と三角筋各1ヵ所の部位）に2回注射するとともに，アリピプラゾール経口剤20mgを1回投与する。その後は経口投与を継続しない。

開始日から1ヵ月後に，400mg/月投与を開始する。

注射1回＋経口剤投与による開始レジメンでは，注射後7日間で最高血漿中濃度に達し，4週間で最低血漿中濃度になる4。定常状態では，最高血漿中濃度は最初の投与時に得られた最高血漿中濃度よりも最大で50％高くなり，最低血漿中濃度は最初の最高血漿中濃度よりわずかに低いだけである4。用量を調節する場合，このことを考慮する必要がある。母集団薬物動態モデルの研究によれば，2回注射により開始する方法でも1回注射により開始する方法と同程度のアリピプラゾール血漿中濃度が得られる5。

400mg/月で忍容性がない場合には300mg/月に減量してもよい。200mg/月で使用してもよいのは，特定の酵素阻害薬を服用している場合のみである。アカシジア，不眠，悪心，不穏等の発生率は経口剤と同様である6, 7。

アリピプラゾールへの切り替えは公式に推奨されているわけではないが，以下に薬物動態データから解釈して推奨できる投与法を提示する。

アリピプラゾールLAIへの切り替え

切り替え前の治療 アリピプラゾールLAIレジメン
経口抗精神病薬 2週間かけて前の抗精神病薬からアリピプラゾール経口剤＊に切り替える
1回注射による開始
アリピプラゾールLAIを開始し，アリピプラゾール経口剤をさらに2週間継続してから中止する
2回注射による開始
上述の通り，アリピプラゾール経口剤を2週間投与後にアリピプラゾールLAIを開始し，その時点で経口剤を中止する＊＊
抗精神病薬デポ剤（リスペリドンLAI以外） 最後のデポ剤注射予定日にアリピプラゾール経口剤＊を開始する
1回注射による開始
2週間後にアリピプラゾールLAIを開始し，その2週間後にアリピプラゾール経口剤を中止する
2回注射による開始
上述の通り，アリピプラゾール経口剤を2週間投与後にアリピプラゾールLAIを開始し，その時点で経口剤を中止する＊＊
リスペリドンLAI リスペリドンの最終注射の4-6週間後にアリピプラゾール経口剤＊を開始する
1回注射による開始
2週間後にアリピプラゾールLAIを開始し，その2週間後にアリピプラゾール経口剤を中止する
2回注射による開始
上述の通り，アリピプラゾール経口剤を2週間投与後にアリピプラゾールLAIを開始し，その時点で経口剤を中止する＊＊

＊過去のアリピプラゾールへの反応と忍容性がわかっている場合には，アリピプラゾールの注射剤投与前に経口剤を使用する必要はない。しかし，1回注射により開始する方法においてアリピプラゾールの血漿中有効濃度に達するかどうかは4週間の経口剤投与に依存する。同様に2回注射により開始する方法についても，薬物動態モデル解析上では，アリピプラゾール経口剤投与による血漿中濃度が開始日に定常状態にある前提である。
＊＊アリピプラゾール経口剤を全く投与できない場合（患者が拒否した場合等）は，必ず2回注射により開始する方法を使用する。この800mg投与により，事前の経口剤投与がなくても，血漿中濃度は治療域に達する可能性が高い。

その他のアリピプラゾールLAIブランド

米国食品医薬品局（FDA）は，もう1つのアリピプラゾール持効性製剤を統合失調症の治療に承認した。米国外で使用されることは稀である。aripiprazole lauroxilは，用量に応じて月1回，6週に1回，2ヵ月に1回の頻度で，三角筋または臀部に筋注するよう製剤化されたプロドラッグである8, 9。以下の4つの用量で市販されている。441mg，662mg，882mg，1,064mgの用量でそれぞれアリピプラゾール300mg，450mg，600mg，724mgが送達される（本Chapterのデポ剤の薬物動態と新規持効性注射剤に関する項を参照すること）。特殊開始製剤（Aristada Initio）もあり，これは経口投与なしで注射後4日以内に有効血中濃度に達する10。

（猪飼　紗恵子）

参照文献
  1. Shirley M, et al. Aripiprazole (ABILIFY MAINTENA®): a review of its use as maintenance treatment for adult patients with schizophrenia. Drugs 2014; 74:1097–1110.
  2. US Food and Drug Administration. Highlights of Prescribing Information. Abilify Maintena (aripiprazole) for extended-release suspension for intramuscular use. 2020; https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2020/202971s013lbl.pdf .
  3. Otsuka Pharmaceuticals (UK) Ltd. Summary of Product Characteristics. Abilify Maintena 400 mg powder and solvent for prolonged-release suspension for injection. 2020; https://www.medicines.org.uk/emc/product/7965/smpc .
  4. Mallikaarjun S, et al. Pharmacokinetics, tolerability and safety of aripiprazole once-monthly in adult schizophrenia: an open-label, parallel-arm, multiple-dose study. Schizophr Res 2013; 150:281–288.
  5. Wang Y, et al. The two-injection start of aripiprazole once-monthly provides rapid attainment of therapeutic concentration without the need for 14 day oral Neuropsychopharmacology (ECNP) Congress, 12–15 September 2020, Virtual.
  6. Kane JM, et al. Aripiprazole intramuscular depot as maintenance treatment in patients with schizophrenia: a 52-week, multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled study. J Clin Psychiatry 2012; 73:617–624.
  7. Potkin SG, et al. Safety and tolerability of once monthly aripiprazole treatment initiation in adults with schizophrenia stabilized on selected atypical oral antipsychotics other than aripiprazole. Curr Med Res Opin 2013; 29:1241–1251.
  8. Hard ML, et al. Aripiprazole lauroxil: pharmacokinetic profile of this long-acting injectable antipsychotic in persons with schizophrenia. J Clin Psychopharmacol 2017; 37:289–295.
  9. Turncliff R, et al. Relative bioavailability and safety of aripiprazole lauroxil, a novel once-monthly, long-acting injectable atypical antipsychotic, following deltoid and gluteal administration in adult subjects with schizophrenia. Schizophr Res 2014; 159:404–410.
  10. Ehret MJ, et al. Aripiprazole Lauroxil NanoCrystal® Dispersion Technology (Aristada Initio®). Clin Schizophr Relat Psychoses 2018; 12:92–96.