モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

クロザピンの血漿中濃度測定結果に対してとるべき措置

先進国の多くでは,クロザピンの血中濃度モニタリングが広く行われている。クロザピンの血中濃度測定結果に基づいてとるべき一般的な措置を表11.4に示す。表に示された血中濃度の範囲はやや任意で便宜的なものである。臨床的に有効な血中濃度は,個々の患者にクロザピンを投与してみないとわからない。ほとんどの副作用は,用量または血漿中濃度と直線的または指数関数的な相関を示す。すなわち,特定の用量または血漿中濃度を超えるとけいれん発作のリスクが増加するということはない1。したがって,表11.4は厳密で確実なエビデンスに基づいた指示とみなすべきではなく,意思決定時の参考にとどめるべきである。また,副作用に対する忍容性も考慮しなければならない。治療域に達する前にかなりの副作用に悩まされるケースは多いが2,時間の経過とともに耐性が生じて副作用は軽減する。

表11.4 クロザピンの血漿中濃度測定結果に対してとるべき措置

血中濃度 反応性 忍容性 提案される措置
<350μg/L 不良 不良 350μg/Lになるまで非常に慎重に増量する
不良 良好 350μg/Lになるまで増量する
良好 不良 用量を維持する。忍容性が改善しない場合は慎重な減量を考慮する
良好 良好 モニタリングを継続する。措置は必要ない
350-500μg/L 不良 不良 忍容性をみながら,500μg/Lを超えるまで慎重に増量する。抗てんかん薬の予防的投与を検討する**。改善しなければ増強療法を検討する
不良 良好 忍容性をみながら,500μg/Lを超えるまで慎重に増量する。抗てんかん薬の予防的投与を検討する**。改善しなければ増強療法を検討する
良好 不良 用量を維持し,忍容性が改善するかどうかを確認する。血漿中濃度が350μg/L程度になるまで慎重に減量することを検討する
良好 良好 モニタリングを継続する。措置は必要ない
500-1,000μg/L 不良 不良 抗てんかん薬の予防的投与を検討する**。増強療法を検討する
増強療法が奏効したら減量を試みる
不良 良好 抗てんかん薬の予防的投与を検討する**。増強療法を検討する
良好 不良 減量すると反応がなくなることがわかっていない限り,血漿中濃度350-500μg/Lまで徐々に減量することを試みる。減量すると反応がなくなる場合は用量を維持し,抗てんかん薬の追加を検討する**。副作用に対し最適な治療を行う
良好 良好 抗てんかん薬の予防的投与を検討する**。良好な忍容性が維持された場合は用量を維持する
>1,000μg/L 不良 不良 抗てんかん薬を追加する。増強療法を試みる。1,000μg/L未満になるまで減量する
クロザピンの投与中止を検討する
不良 良好 抗てんかん薬を追加する。増強療法を試みる
増強療法が奏効したら,1,000μg/L未満になるまで減量する。無効の場合にはクロザピンの投与中止を検討する
良好 不良 抗てんかん薬を追加する。血漿中濃度が1,000μg/L未満になるまで徐々に減量を試みる
良好 良好 抗てんかん薬を追加する。綿密にモニタリングする。忍容性が低下した場合のみ減量を試みる

反応性不良
クロザピンに対する反応がないか不十分であり,例えば,退院は困難である
反応性良好
クロザピンによって明らかに良好な変化があり,退院して社会生活を送ることができる可能性がある(支援を必要とする場合も必要としない場合もある)
忍容性不良
頻脈,鎮静,流涎過多,低血圧等の副作用により投与量が制限される(副作用の治療についてはChapter 1を参照のこと)
忍容性良好
忍容性が良好であり,重篤な毒性の徴候はない
増強療法
他の抗精神病薬または気分安定薬を追加する(Chapter 1を参照のこと)
  • いずれの場合も,クロザピンによる便秘を適切に治療する。便秘は投与量に依存する。便通が規則的にあることを確認し,腸機能を記録する。センナ等の刺激性緩下剤が必要になる(Chapter 1を参照のこと)。
  • けいれん発作は投与量および血漿中濃度に依存する。抗てんかん薬としてはバルプロ酸やラモトリギンが適切であるが,稀にトピラマートを用いることもある。反応不良の場合にはラモトリギン,感情症状がある場合にはバルプロ酸を使用する(Chapter 2を参照のこと)。バルプロ酸の使用により,クロザピンによる好中球減少症のリスクが上昇することに注意3

本表は,クロザピン投与量が安定し,アドヒアランスが良好であると確認された患者における測定結果を対象としたものである。
**クロザピン血漿中濃度が600μg/Lを超え,脳波(EEG)が正常でない症例,および血漿中濃度はより低いがクロザピンによるけいれん発作を呈する症例では,抗てんかん薬を使用すべきである。


<編集協力者コメント>
  • クロザピンの血中濃度測定は,本邦ではルーチンに施行できない。
  • クロザピンとの併用に関し,本邦では添付文書に「本剤は原則として単剤で使用し,他の抗精神病薬とは併用しないこと」と規定されている。

(吉田 和生)

参照文献
  1. Varma S, et al. Clozapine-related EEG changes and seizures: dose and plasma-level relationships. Ther Adv Psychopharmacol 2011; 1:47–66.
  2. Yusufi B, et al. Prevalence and nature of side effects during clozapine maintenance treatment and the relationship with clozapine dose and plasma concentration. Int Clin Psychopharmacol 2007; 22:238–243.
  3. Malik S, et al. Sodium valproate and clozapine induced neutropenia: A case control study using register data. Schizophr Res 2018; 195:267–273.