モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

ベンゾジアゼピンの乱用

ベンゾジアゼピン系薬剤は,バルビツレートより安全性プロファイルが改善されていたこともあり,1960年代および1970年代に処方量が増加した。しかし,その後すぐにベンゾジアゼピン系薬剤は依存を引き起こす可能性が高いことが明らかになった。本来は別の疾患に対して処方が始まった薬剤がしばしば長期間継続的に使用され,依存を生み出す事態に至った。特に高齢者,不安障害群,うつ病の患者でよくみられる傾向であった。イングランドでは,ベンゾジアゼピン系薬剤の処方数は2015-2016年に1,630万件であったが,2018-2019年に1,490万件に減少した。

新規あるいは「デザイナー」ドラッグとしてのベンゾジアゼピン系薬剤が多数ある(例:エチゾラム,flualprazolam,flunitrazolam,norfludiazepam)。これらの物質が健康や社会に及ぼす害に関して得られている情報は少ないが,既存のベンゾジアゼピン系薬剤と同程度かそれ以上に有害である可能性が高い1 。英国では,これらのベンゾジアゼピン系薬剤の一部(flualprazolam,flunitrazolam,norfludiazepam)は Schedule 1 に分類されており,薬剤としてのベンゾジアゼピン系薬剤はSchedule 3または4(訳注)に分類されている。ベンゾジアゼピン系薬剤は,処方以外では違法市場,処方箋の流用,インターネットでの購買(増加傾向にあると考えられている)により入手できる2

ベンゾジアゼピン依存症には,医原性(低用量の処方薬を長年にわたり連日使用)と非医原性(高用量の違法薬物を間欠的に使用)があると考えることができる。


訳注:英国国内の薬物規制に関する割り当てで,1から5に分類される。Schedule 1は最も規制が厳しく,また治療的効果が認められないと判断される薬剤でLSDやMDMA(エクスタシー)などが属する。Schedule 2から4は主に処方により所有が許可される薬物が属する。

中止

以前発表された(現在では取り下げられている)コクラン・レビューで,ベンゾジアゼピン系薬剤単剤の依存症に対する薬理学的介入のエビデンスが評価され,ベンゾジアゼピン系薬剤は急に中止するより緩徐に減量する方が望ましいと結論付けている3 。より新しいレビューでは,6ヵ月未満で中止することが大部分の患者にとって適切であるとしており4 ,英国の薬物乱用および依存に関するガイドラインでは,2週間毎に1日量の約1/8ずつ減量することを勧めている5 。オーストラリアの一般診療(GP)ガイドラインには,「最適な漸減速度」に関するエビデンスは「ない」ため,「厳密な減量速度は薬剤,用量および投与期間に応じて個別に判断すべきである」と記載されている6

メタ解析では,高齢者のベンゾジアゼピン系薬剤の使用を減らすには,多面的な処方的介入(通常は心理的介入/支援を含む)の有効性が支持されている7 。また,1件のRCTで,自己効力感の理論に基づいた簡単な教育的アプローチにより,ベンゾジアゼピン系薬剤を長期使用している高齢者の1/4近くが自発的に使用量を減少し,断薬したことが示されている8 。2018年のコクラン・レビューでは,離脱過程を容易にする併用薬は見出されなかった。一部の薬剤が一定の有益な効果をもたらすと思われるものの,エビデンスの質が低いため臨床的な推奨はできないとされている9

乱用治療施設を受診している患者の多くは,元の乱用物質に加えてベンゾジアゼピン系薬剤を不適切に使用している可能性がある。非医原性のベンゾジアゼピン依存症患者はしばしば,1日に100mgを超えるジアゼパムを摂取する。一部の施設ではこのような患者に対してベンゾジアゼピン系薬剤を処方しているが,ベンゾジアゼピン系薬剤の処方を医療機関で行うことにより乱用が最終的に減少するというエビデンスはない。ベンゾジアゼピン系薬剤を処方する場合は,その後の解毒を目的として理想的には短期間(2-3週間)に時間を区切って処方すべきである。

ベンゾジアゼピン系薬剤が長期間にわたり処方されていた患者では,離脱症状を起こす可能性が低い長時間作用型のジアゼパムの等価量への変更が望ましい場合がある。多剤依存の一部としてベンゾジアゼピン依存がある場合も,漸減治療を行うべきである。ジアゼパム等価換算で1日30mgを超えるベンゾジアゼピン系薬剤の処方は有害な場合があり5 ,可能な限り避けるべきである(医原性の依存症ではそのような用量は稀である10)。随伴性マネジメントを含めた心理社会的な介入は,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用量減少に一定の成果を挙げている。コクラン・レビューによると,「短期的には,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用量減少を目的とした認知行動療法(CBT)と漸減治療の併用を支持するエビデンスがある。現時点で,動機付け面接(MI)の実施を支持するエビデンスはない。また,構造化されたコンサルテーション,かかりつけ医からの各患者への書簡等の簡易な介入はさらに検討する価値がありそうだとする新たなエビデンスがいくつかある」11

妊娠とベンゾジアゼピン系薬剤乱用

ベンゾジアゼピン系薬剤はヒトの主な催奇形性物質ではないが,妊娠を計画している場合には漸減中止することが理想的である。ベンゾジアゼピン系薬剤を処方されている患者で妊娠が発覚した場合は,離脱症状のけいれん発作のリスクおよび母体,胎児に及ぼす影響の可能性を念頭に置き,処方は徐々に,できる限り短期間で減らしていくべきである。リスク・ベネフィット分析を行い,専門家の助言を求めるべきである(Chapter 7の「妊娠中の薬剤の選択」の項を参照)。ベンゾジアゼピン依存症であれば女性も他の患者と同様に,減量する前にジアゼパムで安定化させることが適切であると考えられる5

要約

  • ベンゾジアゼピン系薬剤は2週間毎に約1/8ずつ減量する
  • 通常は6ヵ月以内に中止を完了させる
  • ジアゼパムの等価量への切り替えが離脱前によく行われている
  • オピオイドが主剤と推測される多剤乱用例において,ベンゾジアゼピン系薬剤乱用は頻繁にみられる
医原性の依存に対する標準的なジアゼパム離脱スケジュール
ベースライン 30mg/日
2週目 25mg/日
4週目 20mg/日
6週目 18mg/日
8週目 16mg/日
10週目 14mg/日
12週目 12mg/日
14週目 10mg/日

以降は忍容性に応じて2週間毎に2mg/日ずつ減量する。

(内田 貴仁)

参照文献
  1. Advisory Council on the Misuse of Drugs (ACMD). A review of the evidence of use and harms of Novel Benzodiazepines. London: Home Office. 2020; https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/881969/ACMD_report_-_a_review_of_the_evidence_of_use_and_harms_of_novel_benzodiazepines.pdf.
  2. Manchester KR, et al. The emergence of new psychoactive substance (NPS) benzodiazepines: A review. Drug Test Anal 2018; 10:392–393.
  3. Denis C, et al. Pharmacological interventions for benzodiazepine mono-dependence management in outpatient settings. Cochrane Database Syst Rev 2006; CD005194.
  4. Lader M, et al. Withdrawing benzodiazepines in primary care. CNS Drugs 2009; 23:19–34.
  5. Department of Health (DoH). Drug misuse and dependence: UK guidelines on clinical management. London: Department of Health. 2017; https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/673978/clinical_guidelines_2017.pdf.
  6. Royal Australian College of General Practitioners (RACGP). Prescribing drugs of dependence in general practice, Part B – benzodiazepines. Melbourne, Australia. 2015; https://www.racgp.org.au/FSDEDEV/media/documents/Clinical%20Resources/Guidelines/Drugs%20of%20dependence/Prescribing-drugs-of-dependence-in-general-practice-Part-B-Benzodiazepines.pdf.
  7. Gould RL, et al. Interventions for reducing benzodiazepine use in older people: meta-analysis of randomised controlled trials. Br J Psychiatry 2014; 204:98–107.
  8. Tannenbaum C, et al. Reduction of inappropriate benzodiazepine prescriptions among older adults through direct patient education: the EMPOWER cluster randomized trial. JAMA Inter Med 2014; 174:890–898.
  9. Baandrup L, et al. Pharmacological interventions for benzodiazepine discontinuation in chronic benzodiazepine users. Cochrane Database Syst Rev 2018; 3:Cd011481.
  10. Vicens C, et al. Comparative efficacy of two interventions to discontinue long-term benzodiazepine use: cluster randomised controlled trial in primary care. Br J Psychiatry 2014; 204:471–479.
  11. Darker CD, et al. Psychosocial interventions for benzodiazepine harmful use, abuse or dependence. Cochrane Database Syst Rev 2015; Cd009652.