モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

Chapter 5 Children and adolescents小児・青年期

小児・青年期における処方の原則1

  • 診断ではなく,症状を標的にする
     小児では診断をつけるのは難しく,他の疾患が併存する場合も非常に多い。治療は主要な症状を標的にすべきである。暫定診断を下すことは,今後のおおまかな見通しを立てて患者や保護者とコミュニケーションを図るうえで役立つが,疾患の全貌が明らかになるまでは時間がかかることを念頭に置いておくべきである。
  • 小児に対する処方の実務面を認識する
     1968年の英国の薬事法(Medicines Act)および欧州の規制当局は,医師に対して薬剤の適応外使用,承認されている用量を超えての使用,あるいは未承認薬剤の使用に関する規定を設けている。しかし,医師は薬剤を処方する前に,その薬剤の質,効果,安全性,使用意図を支持する適切な情報があることを常に確認しておく責任がある。小児の臨床場面においては,未承認薬の使用や,承認薬の適応疾患以外への使用(適応外使用)がしばしば必要になることが知られている。
    • 英国における処方箋の記載:12歳未満に対して処方箋が必要な薬剤を使用する場合は,処方箋に年齢を記載することが法的に義務付けられているが,小児の場合はすべての処方箋に年齢を記入することが望ましい。
  • 少量より開始し,緩徐に増量し,有効性および副作用をモニタリングする
     外来患者ではmg/kg/日単位あたりで成人より少ない用量から開始する。必要に応じて緩徐に増量し,十分な症状コントロールが達成され,副作用が最小限である用量で終了する(小児・青年では副作用が多くみられる)。日頃から,薬物療法を継続する必要があることを確認するために,有効性と副作用の定期的なモニタリングが不可欠である。
  • 重症例では多剤併用が必要となることが多い
     単剤療法が理想である。しかし,小児期の発症では重症例となる可能性があり,心理社会的なアプローチに加えて多剤併用療法が必要になることがある。コファーマシー(co-pharmacy)は異なる障害または症状に対して異なる薬剤を投与することであるが,ポリファーマシー(poly-pharmacy)は同じ症状を管理するために複数の薬剤を使用することを指す。小児では複数の症状が同時に発生することが多いため,コファーマシーがよく用いられる。
  • 治療効果は十分な時間をかけて判定する
     小児は同じ疾患であっても成人よりも重症となり,治療反応を示すまでに時間がかかることが多い。うつ病あるいは統合失調症で入院が必要となった患者では,治療効果の適切な判定に8週間は要するであろう。
  • 薬剤の変更は,可能な限り1回につき1剤にとどめる
     1回につき1剤を変更し,新しい薬剤を追加する際には,可能な限り内服中の1剤を中止する。
  • 複数の場面における症状をモニタリングする
     対症療法[例えば、注意欠陥・多動性障害(ADHD)に対する精神刺激薬]では,症状は場面(例:家と学校)により異なるかもしれないことを念頭に置くべきである。保護者の報告に合わせて増量すると,学校生活の場面では多すぎるかもしれない。
  • 患者と家族に対する服薬指導は必須である
     小児・青年期の精神疾患を有する患者では,生涯にわたって薬を必要とする場合もある。ゆえに最初の薬物療法に関する経験は,その後の長期的な転帰やアドヒアランスに重大な影響を及ぼす。疾患,薬物療法,副作用,および薬物療法へのアドヒアランスに関する教育を行うべきである。患者とその保護者には,薬物療法の変更を遠慮なく相談してよいと伝えておく。

<編集協力者コメント>

小児・青年期では,病状や社会環境の変化が目まぐるしく展開するだけでなく,患者や家族の成長による治療的変化が成人に比べて柔軟に起こりうる。そのため,主訴や治療目標をクライアントと共有することが,診断よりも優先される。一方的な診断を押し付けて多剤併用療法を行うのではなく,時には仮説の誤りを認め,再出発に必要な情報を再びクライアントから教えてもらうという謙虚な姿勢が必要である。

(加治 正喬)

詳細情報の参照文献

小児・青年期における処方の詳細とCNS薬の副作用については以下を参照のこと。

British Medical Association et al. British National Formulary for Children 2020/2021 (September 2020). London: Pharmaceutical Press; 2020.

Elbe D, et al. Clinical Handbook of Psychotropic Drugs for Children and Adolescents. 4th revised edn. Oxford, UK: Hogrefe Publishing; 2019.

Gerlach M, et al. Psychiatric Drugs in Children and Adolescents. Basic Pharmacology and Practical Applications. Vienna: Springer-Verlag Wien; 2014.

Martin A, et al. Pediatric Psychopharmacology: Principles and Practice. Second Edition. New York, USA: Oxford University Press; 2011.