モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

向精神薬以外の薬剤による精神症状の副作用の要約

向精神薬以外の薬剤が幅広い精神症状を誘発する可能性について,ますます認識が高まっている1。大部分の症例では因果関係を支持するエビデンスが限られてしまうものの,すべての薬剤の最大2/3が,添付文書に記載される精神症状の副作用に関与する可能性がある2。精神症状の副作用は薬剤の臨床試験では十分に検出されず,しばしば市販後調査中に明らかになるのみである3。この不確実性のレベルを考えると,疑わしい精神症状の副作用はケースバイケースで診断および管理すべきと考えられる。一般的な指針として,向精神薬以外の薬剤による精神症状の副作用を表14.4に要約する。以下に記載されていない薬剤の詳細については,別の出典および製薬会社の製品概要を参照すること。精神医療で用いられる薬剤とHIVおよびてんかんの治療薬による精神症状の副作用は,本ガイドラインの他項に要約されていることに留意する。

表14.4 向精神薬以外の薬剤による精神症状の副作用(ADR)の要約4-7

薬剤 精神症状の副作用 コメント
ACE阻害薬
例:カプトプリル,リシノプリル 疲労,幻覚,せん妄,気分障害 カプトプリルが気分に対する影響に最も関連する。全般的に,精神症状のADRは限られている
鎮痛薬
オピオイド系薬剤 鎮静,不快気分,錯乱,多幸等の気分変調,睡眠障害,幻覚,精神病症状,せん妄,依存 オピオイド系薬剤では精神症状のADRが比較的多い。稀に,オピオイド離脱中の精神病症状も報告されている8
5-HT1作動薬(例:スマトリプタン) 疲労,不安,パニック発作  
抗菌薬
セファロスポリン系薬剤,ペニシリン系薬剤,キノロン系薬剤(フルオロキノロン等),テトラサイクリン系薬剤 睡眠障害(不眠症および眠気,異常な夢,悪夢),不安,せん妄および錯乱状態,抑うつおよび激越,精神病症状(例:幻覚,自殺念慮) すべての抗菌薬はせん妄を起こす可能性がある。基礎疾患がある患者は精神症状のADRを発現するリスクが高いと考えられる。キノロン系薬剤のなかでは,シプロフロキサシンが気分障害,激越,錯乱等の精神症状のADRの発現が最も多い。精神症状のADRは,例えば1回服用した後等,すぐに発現する可能性がある
抗マラリア薬
クロロキン,メフロキン 幻覚等の精神病症状,パニック発作,自殺念慮および自殺企図,不安,抑うつ,不穏,錯乱。メフロキンでは異常な夢/悪夢が多い 症状は治療開始後極めて早期からみられる。患者にはこれらの症状が現れたら服用を中止し,受診するよう勧めるべきである。精神症状のADRはメフロキンの方がクロロキンよりも多い。薬剤の投与中止後にも反応が起こることがある。精神病の現症または既往のある患者にはメフロキンは処方すべきではない
抗パーキンソン病薬
レボドパ 幻視,抑うつ,軽躁,睡眠障害,異常な夢,認知機能障害,激越,精神病症状,せん妄  
ドパミン作動薬 鎮静,精神運動性激越,不安,アカシジア,睡眠障害,精神病症状,認知機能障害,せん妄,幻視 ドパミン作動薬はレボドパよりも精神症状の副作用に関連する
アマンタジン 集中力低下,睡眠障害,幻視,易刺激性,不安,抑うつ,多幸,疲労,精神病症状,せん妄  
セレギリン[モノアミン酸化酵素 B(MAO-B)阻害薬] 睡眠障害,激越,精神病症状 主な代謝物としてlevoamfetamineがある
エンタカポン[カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬] 睡眠障害,幻覚,せん妄  
心血管系に作用する薬剤
β遮断薬 疲労,鎮静,睡眠障害および悪夢,認知機能障害,抑うつ,幻覚,精神病症状,せん妄 脂溶性β遮断薬(例:プロプラノロール,メトプロロール)では親水性β遮断薬(例:アテノロール,ソタロール,ナドロール)よりも副作用が多くみられる。プロプラノロールは抑うつ症状に最も多く関連するが,それでも因果関係は明確に実証されていない。多数の臨床試験で得られた精神症状のADRに関する報告は一貫性がない
カルシウムチャネル遮断薬(例:ジルチアゼム,アムロジピン) 気分変調,倦怠感,不快気分,躁,精神病症状,せん妄,アカシジア 因果関係は曖昧である
スタチン系薬剤9-11(例:シンバスタチン,アトルバスタチン) 認知機能障害,記憶障害,抑うつ,情緒不安定,易刺激性,睡眠障害 スタチン系薬剤と気分,睡眠,認知の変化との因果関係は,RCTのシステマティック・レビューにおいて示されていない。スタチン系薬剤は血液脳関門を通過し,シンバスタチンは浸透性が最も高い。親水性スタチン系薬剤(例:プラバスタチン,ロスバスタチン)への切り替えが,中等度-重度の精神症状のADR疑診例において,提案されている
コルチコステロイド
グルココルチコイド(例:ベタメタゾン,プレドニゾロン,prednisone) 気分障害,自殺念慮,多幸,激越,睡眠障害,精神病症状およびせん妄,認知症,認知機能障害 明らかな因果関係がある。精神症状のADRの発現は極めて突然のことが多く,投与開始後1-2週間以内に起こる。症状は通常では減量により軽減する。いくつかの投与経路(経口,非経口,吸入等)との関連が報告されているが,おそらく吸入では頻度が低い。症状は通常,徐々に中止することによって解消されるが,症状の持続期間は大幅に異なっている
その他の薬剤
化学療法に用いられる薬剤(例:5-フルオロウラシル,アスパラギナーゼ,ボルテゾミブ,イホスファミド,ビンクリスチン) 多い:認知機能障害,せん妄,精神病症状
少ない:抑うつ,不安,自殺念慮
化学療法に用いられる薬剤のほぼすべてが重大な精神症状のADRに関連するが,その要因は複数にわたる可能性がある(疾患の経過に伴うもの,ADR,心理的苦悩)。癌治療に伴う認知の変化としては,遂行機能,マルチタスク処理,短期記憶想起,注意の困難が含まれる。認知の変化は用量依存的と考えられ,ある種の薬剤(メトトレキサート,フルダラビン,シタラビン,5-フルオロウラシル,シスプラチン)は認知機能の悪化に関連する
シメチジン 認知機能障害,せん妄  
インターフェロン-αおよびインターフェロン-β 抑うつ,以前は有効であった抗うつ薬の効果の喪失,自殺念慮,せん妄,非特異的精神症状。インターフェロン-αにより稀に精神病症状および躁症状の報告がある インターフェロン-βでは精神症状のADRの可能性は比較的低いが,インターフェロン-αでは様々な報告がある。インターフェロン-αに関連する抑うつには抗うつ薬が奏効し,予防的に使用することもできる。インターフェロン-αに関連する精神症状のADRを発現する可能性が高い患者を予測するため,新たな診断バイオマーカーが検討されている
isotretinoin12 抑うつ,自殺念慮,精神病症状 精神症状のADRの報告が散発的にみられるが,isotretinoin投与と抑うつ,不安,気分変調,または自殺念慮/自殺との間の因果関係は示されていない。さらに,最近のシステマティック・レビューでは,ざ瘡の治療により抑うつ症状が改善することが示された13。稀な特異体質反応は除外できない。これらが発現した場合,isotretinoinは中止すべきである。リスクは自殺企図歴のある患者で,より高いわけではなく,投与量または治療期間に関連しない

ADR:副作用,RCT:無作為化比較試験

精神症状の副作用の鑑別診断

広範な交絡因子が精神症状の副作用の診断(およびおそらく認識)を複雑にしている。例えば,身体疾患,併用薬,処方箋薬以外の薬剤,既存の精神疾患はすべて臨床症状および転帰に影響を及ぼす可能性がある。薬剤と精神症状の副作用の因果関係の確率を決定する因子をBox14.1に示す。Naranjo尺度を用いて薬剤に関連する副作用の確率を判定することは,臨床上の意思決定に役立つだろう(表14.5)。一部の症例では非向精神薬の被疑薬剤を中止した方がよい可能性があるが,そうした決定は個々の症例で検討する必要があり,本書の範囲を超えている。

Box 14.1 薬剤と精神症状の副作用の因果関係の確率を決定する因子4, 15

  • 薬剤への曝露と精神症状の副作用の時間的関係
  • 被疑薬剤により生じる特異的な精神症状の副作用のエビデンス
  • 精神症状の副作用に関する説得力のある薬理学的機序(例:ドパミン作動薬と精神病症状)
  • 症状に対する別の説明の存在(例:既存の精神疾患,新たな精神疾患,他の薬剤)
  • 薬剤の中止に対する症状の反応
  • 同じ薬剤の再投与による影響

表14.5 翻案Naranjo副作用確率判定尺度14

質問 はい いいえ NA/不明
1. この副作用に関する決定的な先行報告はあるか +1 0 0
2. この副作用は疑わしい薬剤の服用後に発現したか +2 -1 0
3. この副作用は疑わしい薬剤の中断後に軽快したか +1 0 0
4. この副作用は再投与によって再現されたか +2 -1 0
5. この副作用を起こす可能性のある他の原因があるか -1 +2 0
6. この副作用はプラセボによっても引き起こされたか -1 +1 0
7. 血液中に中毒濃度で当該の薬剤が検出されたか +1 0 0
8. 当該薬剤の増量時に副作用が増悪あるいは減量時に軽減したか +1 0 0
9. 当該患者は,同じまたは同種の薬剤を以前に投与したとき,常に同様の反応を示したか +1 0 0
10. この副作用は客観的エビデンスによって確認されたか +1 0 0

確率のスコア:≧9=決定的,5-8=可能性大,1-4=可能性小,≦0=疑わしい。

(岩田 祐輔)

参照文献
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その他の参照文献

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