モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

統合失調症治療のNICEガイドライン

NICEガイドライン20091では,以前のガイドラインから重要な変更があった。2009年版では「非定型抗精神病薬」を第一選択薬とすることは必須とされておらず,抗精神病薬を2種類以上試して治療が失敗した後に,クロザピンを処方するというより「提案する」ことが推奨されている。こうした意味上の差は,SGAへの幻滅と,臨床ではクロザピンがなかなか処方されないという認識を反映している。さらに2009年版では,処方薬の決定における患者や介護者の関与の重要性が強調されていた。患者や介護者は治療の決定にほとんど関与していない2というエビデンスがいくつかある3。新しいNICEガイドラインが2014年2月に発表され,2019年3月に再度見直された。

NICEガイドライン─要約

  • 新たに統合失調症と診断された患者に対しては,抗精神病薬の経口投与と心理的介入[認知行動療法(CBT)または家族介入]が推奨される。患者に情報を提供し,処方薬の効果と副作用について話し合う。薬剤の選択は医師と患者が以下を考慮し,共同で行うべきである。
    • 個々の抗精神病薬が錐体外路副作用(アカシジア等),心血管系への副作用,代謝系への副作用(体重増加等),ホルモンへの副作用(プロラクチン値上昇等),その他の副作用(患者の主観的な不快感等)を起こす可能性
    • 患者が同意する場合は介護者の意見
  • 抗精神病薬による治療を開始する前に,以下の検査の実施および記録を行う。
    • 体重
    • 腹囲
    • 脈拍および血圧
    • 空腹時血糖,HbA1c,血中脂質,プロラクチン値
    • 運動障害の評価
    • 栄養状態,食事,身体活動量の評価
  • 以下に該当する場合には,抗精神病薬による治療を開始する前に心電図検査(ECG)を行う。
    • 当該薬剤の製品概要に明記されている場合
    • 身体診察で具体的な心血管系リスクが指摘されている場合(高血圧の診断等)
    • 心血管系疾患の既往
    • 入院の場合
  • 抗精神病薬による治療は,明確に患者個人のための臨床試験と見なすべきであり,以下を考慮すべきである。
    • 経口抗精神病薬の適応,予測されるベネフィットとリスク,症状に変化が現れるまでの予想時間,および副作用が出現するまでの時間を記録する。
    • 投与開始時は承認された最小投与量から開始し,英国医療用医薬品集(BNF)または製品概要の基準内で徐々に増量する。
    • BNFまたは製品概要の基準外の用量を使用する場合は,理由を明確にして記録する。
    • 薬剤の継続,変更,中止に関する理由と,これらの変更による効果を記録する。
    • 至適用量での投与を4-6週間試みる(効果が認められない場合は,おそらくこの半分の期間で十分である)。
  • 治療期間中,特に増量中は定期的かつ体系的に以下を観察して記録する。
    • 症状や行動の変化を含めた効果
    • 治療の副作用[副作用のなかには統合失調症と似た臨床症状があることを考慮する(アカシジアと激越や不安感等)]
    • アドヒアランス
    • 体重を最初の6週間は毎週,以降は12週目,1年目,年1回
    • 腹囲を年1回
    • 脈拍および血圧を12週目,1年目,以降は年1回
    • 空腹時血糖,HbA1c,血中脂質を12週目,1年目,以降は年1回
    • 栄養状態,食事,身体活動
  • 身体症状の観察は二次的なケアチームの責任であり,1年間または患者の状態が落ち着くまで行う。
  • 必要に応じて,アルコール,タバコ,処方薬および非処方薬の使用,さらには違法薬物の使用について患者および介護者と話し合う。それらが,処方される治療薬や心理療法と相互作用する可能性について話し合う。
  • 抗精神病薬の負荷用量での使用(いわゆる「急速鎮静」)は行わない(オランザピンとパリペリドンのデポ剤の負荷用量については該当しないことに注意)。
  • 短期間の場合(薬剤を切り替える際等)を除いて,抗精神病薬の併用はルーチンとしては開始しない。
  • クロルプロマジンを投与する際は,皮膚の光過敏症が起こる可能性について説明し,必要に応じて日焼け止めを使用するよう助言する。
  • 下記の場合には,デポ剤/持効性注射剤の投与を検討する。
    • 患者が急性エピソード後の治療として希望する場合
    • 患者の経口薬へのアドヒアランス不良が明らかな場合および/または患者がこの投与方法を希望する場合
  • 適切な用量で少なくとも2種類の抗精神病薬を順に試し,同時に心理療法を行っても反応が思わしくない場合には,クロザピンを投与する。違法薬物(アルコールを含む)の乱用や他の処方薬の使用,あるいは身体疾患を除外する必要がある。試してみる薬剤のうち少なくとも1つはクロザピン以外のSGAとする(「統合失調症の治療アルゴリズム」の項を参照のこと。オランザピンが推奨される)。
  • 至適用量のクロザピンに対しても適切な反応が認められない場合は,別の抗精神病薬を追加してクロザピン療法を増強する前に,薬物濃度の測定等によるコンプライアンスの確認と心理療法を試みるべきである。増強療法を試みる場合は,8-10週間必要な場合がある(6週間で十分というデータもある4)。増強療法では,クロザピンの一般的な副作用を増悪しないような薬剤を選択する。

(谷 英明)

参照文献
  1. National Institute for Health and Care Excellence. Psychosis and schizophrenia in adults: prevention and management. Clinical Guidance [CG178]. 2014 (last checked March 2019); https://www.nice.org.uk/guidance/cg178 .
  2. Olofinjana B, et al. Antipsychotic drugs – information and choice: a patient survey. Psychiatric Bull 2005;29:369–371.
  3. Whiskey E, et al. Evaluation of an antipsychotic information sheet for patients. Int J Psychiatry Clin Pract 2005;9:264–270.
  4. Taylor D, et al. Augmentation of clozapine with a second antipsychotic. A meta analysis. Acta Psychiatr Scand 2012;125:15–24.