モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

クロザピン筋肉内注射

クロザピン筋注薬は,治療抵抗性の精神病性障害の患者が経口薬の服用を拒否した場合に,いったん治療が確立したらクロザピン経口投与に移行することを視野に入れて行う短期的な治療である1。エビデンスは比較的限られているが,最近の観察研究データでは,クロザピン筋注薬の開始は,経口治療への長期的アドヒアランスに悪影響を及ぼさないことが示されている1, 2。クロザピン筋注投与は,短期的な安全性および忍容性がクロザピン経口投与と同様であることもわかっている3重要な点として,クロザピン筋注薬の処方は個々の患者ベースで決定し,その他すべてのアプローチが不成功に終わった場合の最終手段として,クロザピン治療に反応すると予測される患者でのみ検討すべきである1。筋注製剤は英国およびその他多くの国では未承認であるため,十分に注意を払い,患者または介護者の同意を得るべきである。

成人患者にクロザピン筋注薬を処方する際の一般的な推奨事項を表1.35に要約する。

表1.35 クロザピン筋注薬を処方する際の一般的な推奨事項

力価 25mg/mL
最大投与量 1部位あたり100mg(4mL)
経口投与の等価換算量 クロザピン経口投与のバイオアベイラビリティは筋注投与の場合の約半分である(例:50mg/日の筋注薬=100mg/日の錠剤/内服液投与)
投与部位 製薬会社によると臀筋深部へ筋注
最大治療期間 各回の筋注投与前に,患者に経口投与を提案すべきである。クロザピン筋注投与を行うのは可能な限り最短期間とする(最大で連続2週間)
投与回数 筋注回数を最小限にするために,1日1回投与が望ましい
モニタリング 各回の投与後,最初の2時間は15分毎に患者を観察し,過鎮静がないことを確認する
通常のクロザピン投与時のモニタリングも適用される

投与量が100mgを超える場合は,分割して2部位に投与してもよい。
症例集積データでは,大腿外側部または三角筋からの投与が報告されている。注射は痛みを伴うことに注意する2
症例集積データでは,最大96日間のクロザピン筋注投与が報告されている2, 3
注:ベンゾジアゼピン系薬剤の筋注投与が必要な場合は,クロザピン筋注投与とベンゾジアゼピン系薬剤筋注投与の間を1時間以上空ける。


<編集協力者コメント>

クロザピンの筋注薬は本邦未承認であり,原則として使用できない。英国においても未承認薬であり,1日1回の筋注が必要で,患者と医療者の双方にとって負担が大きいことから,ごく限られた入院施設でのみ使用されている。クロザピンを拒薬していた39例の入院患者において,筋注での治療開始がその後の内服治療を可能にしたという後方視的研究が報告されている(Casetta et al. Br J Psychiatry 2020)。

(水野 裕也)

参照文献
  1. Casetta C, et al. A retrospective study of intramuscular clozapine prescription for treatment initiation and maintenance in treatment-resistant psychosis. Br J Psychiatry 2020; 217:506–513.
  2. Henry R, et al. Evaluation of the effectiveness and acceptability of intramuscular clozapine injection: illustrative case series. B J Psych Bulletin 2020; 44:239–243.
  3. Schulte PF, et al. Compulsory treatment with clozapine: a retrospective long-term cohort study. Int J Law Psychiatry 2007; 30:539–545.