モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

セントジョンズワート

セントジョンズワート(SJW)は,Hypericum perforatum(セイヨウオトギリソウ)の一般名である。SJWには,ヒペリシン,ハイパフォリン,フラボノイド等,少なくとも10種類以上の成分が含まれている1。SJWを含む製剤は規格化されていないものが多く,臨床試験の解釈を複雑にする。SJWの有効成分と作用機序は不明である1。SJWの成分はMAOを阻害し,ノルアドレナリンとセロトニンの再取り込みを阻害し,セロトニン受容体をアップレギュレートし,セロトニン受容体の発現を抑制する可能性がある1

SJWを含む製剤の一部は,The traditional herbal registrationとして登録を許可されている2。しかし,許可されているのは効果や忍容性が証明されているためではなく,伝統的に使用されているためであることに注意する。ドイツではうつ病の治療薬として承認されている2

うつ病治療におけるセントジョンズワートのエビデンス

うつ病治療におけるSJWの効果がいくつかの研究で検討されている。これらの研究を対象に幅広いレビューが行われてきており3-6,SJWは軽度-中等度のうつ病3, 5-7に対して有効な可能性があるという結論が多い。例えばコクラン・レビューでは,SJWは軽度-中等度のうつ病に対してプラセボよりも有効であり,標準の抗うつ薬と同等の効果で忍容性はより優れていると結論している4。ただし,これを支持しているエビデンスにはいくつかの限界がある。ドイツ語圏の国で行われた研究の結果は,他の地域における研究より肯定的である4。また,比較試験ではSSRIの投与が不十分であったことが懸念されている8, 9。SJWの大規模なRCTのうち否定的な結果であったものから得られたデータの2件の再解析では,実際に投与された薬剤よりも,被験者と医師の治療割り付けについての見解の方が,臨床転帰とより強く関連していた。すなわち,自分が実薬に割り付けられたと考えた被験者は,プラセボに割り付けられたと考えた被験者より状態が改善していた10, 11。重度のうつ病に対する有効性は依然として明らかになっていない4-6。閉経後うつ病12および一部の疼痛症候群13に対するSJWに関するエビデンスがわずかにある。

注意すべき点として以下が挙げられる。

  • うつ病に有効なSJWの成分はまだ明らかにされていない。これまで行われた試験ではヒペリシンの全含有量で規格化された種々のSJW製剤を使用しているが,ヒペリシン単独でうつ病に効果があるのではないことを示唆するエビデンスがある5
  • インターネット上で購入できるSJW製剤の多くは規制外の栄養補助食品として販売されており,低品質で不純物が添加されていることが多い2。47種類のSJW製剤を対象とした最近の解析で,36%に種の異なるHypericumが混入しており,19%に食用色素が添加されていることが判明している2
  • 発表されている研究は一般に急性期治療の研究である。中期的なSJWの有効性を支持しているのは予備的なデータであり,長期的および再発予防における有効性のデータはない14

結局,SJWを処方すべきではないだろう。それは,SJWの有効成分が何か,または何が治療用量を定めるのかという点が十分に解明されていないからである。SJWのほとんどの製剤は承認を受けたものではない。

副作用

SJWは忍容性が高いと思われる5, 6。既存研究のシステマティック・レビューでは,副作用は旧世代の抗うつ薬より有意に少なく,SSRIよりわずかに少なく,プラセボと同程度であった6。副作用は少ないが,よくみられるのは,悪心,皮疹,倦怠感,不穏,光線過敏である15。重度の光毒性反応は稀なようであるものの,患者にはSJWにより光感受性が増す可能性があることを説明する必要がある15。また,SJWはSSRIと同様に出血リスクを増加させる可能性があり,SJWの経鼻吸入後に鼻出血が遷延したという症例報告がある16。複数の症例報告で,SJWに関連する躁状態,軽躁状態および混合状態が記述されている17。躁症状の発現時期は3日後から2ヵ月後までと幅がある17。高用量および双極性感情障害の既往がある患者での使用には注意が必要である18

薬物相互作用

SJWは,腸と肝臓のCYP3A4,CYP2C9,CYP2C19,CYP2E1および腸のP糖蛋白を強力に誘導する15。この作用をもたらすのはハイパフォリンである20。ハイパフォリン含有量はSJWの製剤間で50倍もの差があるため,各製剤によって異なる傾向の薬物相互作用をもたらす。1日投与量のハイパフォリン含有量が1mg未満の場合にはCYP酵素誘導の可能性は低い20, 21。CYP3A4活性は1-2週間で誘導され,SJWの中止後約7日で通常の状態に戻る22

いくつかの研究では,SJWはワルファリン23,ホルモン避妊薬24,ジゴキシン,インジナビル15(抗HIV薬)の血漿中濃度を著明に低下させることが示されている。症例報告によると,SJWはクロザピン,テオフィリン,シクロスポリン,グリクラジド,スタチン系薬剤の血漿中濃度を低下させる15, 19, 25, 26。SJWはいくつかの抗けいれん薬と相互作用を示すという理論上のリスクがある19。SJWがクロピドグレル(プロドラッグ)の作用を増強させうるという報告もある19。SJWとセルトラリン,パロキセチン,nefazodone,トリプタン系薬剤を併用すると,セロトニン症候群が生じるという報告もある27, 28。SJWは,セロトニン作動性を主作用とする薬剤と併用すべきではない。

多くの人々は植物性の生薬は「自然」で,そのため無害であると考え29,副作用や他の薬剤との相互作用の原因になる可能性を認識していないことが多い。SJWが抗うつ薬として承認されているドイツで行われた大規模研究(n=588)では,SJWを医師から処方された被験者と医師の診察なしにSJWを購入した被験者の割合は1 対1であった30。これらの被験者の多くは重度または持続性のうつ病であったが,SJWを服用していることを主治医に伝えている被験者はほとんどいなかった。米国の小規模研究(n=22)によると,SJWは代替薬として入手しやすいこと,また生薬は処方薬に比べると純粋で安全であると認識されているためにSJWを服用する傾向にあった。SJWの使用について,従来の医療従事者と話し合う者はほとんどいない31。臨床医は,こういった治療法を取り入れているかどうかを患者に積極的に質問し,自然なものは安全であるという誤った通説を払拭するように努力する必要がある(Box 3.3参照)。

Box 3.3 セントジョンズワート:患者に知らせるべき重要事項

  • SJW は軽度-中等度のうつ病の治療に有効であることを示唆するエビデンスがあるが,どのくらいの用量を使用すべきなのか,どのような副作用があるのかについてはよくわかっていない。重度のうつ病に対する効果を示すエビデンスはより少ない。
  • SJWは承認された薬剤ではない。
  • SJWと他の薬剤との相互作用で重篤な副作用を起こす可能性がある。いくつかの重要な薬剤では代謝を促進して効果を減弱させ,深刻な結果を招くおそれがある(例:HIV ウイルス量の増加,経口避妊薬の無効による望まない妊娠,ワルファリンの抗凝固作用の低下による血栓症の発生)。
  • うつ病の症状は他の身体疾患または精神疾患によって生じる場合もある。これらの可能性のある原因について詳しく調べることが重要である。
  • 患者が何らかの植物性の生薬や自然療法を行っているか,または行うことを考えている場合は医師に相談するのが最善である。

<編集協力者コメント>

日常診療においても,サプリメントとしてSJWを使用している人を診る機会は増えており,国内においても注意が必要である。

(久保 馨彦)

参照文献
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