モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

小児・青年期の不安障害

診断上の問題

恐怖と不安は小児において一般的なことで,正常な発達の一部である。同時に,不安障害は小児・青年期に始まることが多く1,この年齢層の精神疾患のなかでは最も多く,診断閾値によって異なるが,全体の有病率は8-30%である2。神経発達障害を有する小児において,不安障害はさらに多い可能性がある3

小児では,苦痛や回避による明確な臨床像が,突出した行動上の問題によって隠されてしまうこともある(例:易刺激性やかんしゃくは回避と関連する)。したがって,小児の不安障害の評価および治療は,正常な発達における適切な不安や恐怖および内気さと,小児の機能を著しく損なう不安障害とを識別することができ,発達段階における症状表出の多様性を正しく認識することのできる臨床医が行う必要がある。

臨床指針

小児・青年期の不安症状は年齢とともに軽減することが多く,これは前頭前野,特に遂行機能の発達に伴うと考えられる。しかし不安障害は,迅速な治療を必要とするような苦痛や障害を伴う状態である。慢性のストレスメディエーターは脳の発達に重大な影響を及ぼすようであり4,不安症状に関連した機能障害によって,社会的,情緒的,および認知機能の発達にとって重要な経験をすることができなくなる可能性がある。最終的に,早期かつ効果的な治療によって精神病理が成人期まで引き継がれることを予防できる可能性がある。例えば,不安障害がある若年者はそうでない若年者と比べて,成人期に不安障害やうつ病を3倍発症しやすい5

英国と米国では,小児・青年期の不安障害に対する治療ガイドラインが利用可能である。NICEのガイドラインは,小児・青年期の社交不安障害に対しては認知行動療法(CBT)を行うことを推奨し,慣例的な薬物療法には警鐘を鳴らしている6。米国児童青年精神医学会(AACAP)のガイドラインでは,OCD,PTSD以外のすべての不安障害の治療について広く扱っている7。AACAPガイドラインでは,心理教育,心理療法(例:曝露療法に基づくCBTを12セッション行う),および薬物療法を含めた集学的治療を提案している。中等度から重度の不安症状に対し,機能障害によって心理療法へ参加することができない場合や心理療法を行っても部分的な反応しかみられない場合に,薬物療法は支持されている。

小児・青年期の不安障害に対する処方

処方前
  • 他の疾患を除外する。不安症状は,うつ病(不注意や睡眠の問題),双極性障害(易刺激性,睡眠の問題,不穏),反抗挑戦性障害(易刺激性や反抗的行動),精神病性疾患(社会的引きこもりや不穏),ADHD(不注意や不穏),アスペルガー症候群(社会的引きこもり,乏しい社会的スキル,反復的行動や常同行動),学習障害等,様々な精神疾患で認める症状である。また,内分泌系(甲状腺機能亢進症,低血糖,褐色細胞腫),神経系(片頭痛,てんかん発作,せん妄,脳腫瘍),心血管系(不整脈),呼吸器系(喘息)等の広範にわたる病態や鉛中毒でも同様の症状がみられることがある。不安様の症状は,喘息治療薬,交感神経作動薬,ステロイド,SSRI,抗精神病薬(アカシジア),ダイエット薬,風邪薬,カフェイン,エナジードリンク等の薬物や物質に対する反応として生じることもある。
  • SSRIに対する禁忌と相互作用に注意する。
  • 治療開始前の重症度を判定する。構造化面接には,Anxiety Disorders Interview Schedule(ADIS)や感情障害と統合失調症のためのキディー・スケジュール(Kiddie-SADS)等がある。質問紙調査としては,改訂小児用不安・抑うつ評価尺度(RCADS),Screen for Child Anxiety and Related Emotional Disorders(SCARED),小児用多次元不安評価尺度(MASC)等がある。機能障害の測定には,小児総合評価尺度(CGAS)等がある。
  • 同意を得る。患者本人および家族と治療について話し合う。例えば,薬剤の名称,初回用量と推定される最終用量,増量のスケジュール,起こりうる副作用,および副作用の評価法や抑制法,状況をモニタリングする方法,治療抵抗性であった場合の対処法等について話し合う。同意を書面化する。
何を処方すべきか
  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)。小児・青年期の不安障害の治療においてはSSRIが第一選択である。例えば,若年者の不安障害での機能障害の変化(CGI-I)におけるSSRI(fluoxetine,フルボキサミン,パロキセチン,セルトラリン)の効果を短期間調査した7件のRCT(<16週間,治療群446例,対照群386例)についてのメタ解析がある。プラセボと比較した治療反応性のオッズ比は4.6[95%信頼区間(CI)=3.1-7.5]で,不安症状改善のオッズ比は5.2(95%CI=2.8-8.8)であった8。Childhood Anxiety Multimodal Study(CAMS)では,プラセボ(反応率24%)と比較すると,セルトラリン単剤療法の効果(反応率55%)はCBT(反応率60%)と同等であること,セルトラリンとCBTの併用が最も有効である(反応率81%)可能性があることが示された9。ネットワークメタ解析によれば,SSRIで,臨床医報告および保護者報告の不安症状が有意に減少し(しかし,小児報告の不安症状の減少は有意ではなかった),寛解が増加した10。ネットワークメタ解析によれば,他の薬物療法と比較して,SSRIは治療反応性が高い可能性がある8。標準的なメタ解析では,概して治療開始から6週間後に臨床的に重要な治療効果が現れることが示されており,SSRIは他の薬物治療に比べて迅速で大幅な改善と関連していることが示された11。忍容性に関しては,SSRIは最も忍容性が高い薬物クラスであり,特にエスシタロプラムおよびfluoxetineは忍容性が高い12

    米国の食品医薬品局(FDA)がセルトラリン,fluoxetine,フルボキサミンを小児のOCDの治療に対して承認し,fluoxetineとエスシタロプラムを小児のうつ病の治療に対して承認している。2004年に米国FDAは,SSRIに関連する抑うつ,激越,自殺念慮の悪化についての懸念のためブラックボックス警告を発表した。これらの懸念は,若年者の不安障害というより青年期のうつ病に関する研究のレビューに基づいたものである。

  • セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)。ベンラファキシンは2件の短期間のRCT(治療群294例,対照群311例)で検討され,デュロキセチンは1件の短期間のRCT(治療群135例,対照群137例)で検討され,アトモキセチンは1件の短期間のRCTで検討された。プラセボと比較したSNRIの治療反応の全体的なオッズ比は2.4(95%CI=1.7-3.6)であった8。プラセボと比較してSNRIは不安症状の改善について統計学的に有意な効果を示しており,平均差は2.5(95%CI=0.1-5.1)であった8。前述のネットワークメタ解析によれば,SNRIは臨床医報告の不安症状を有意に減少させた(しかし,保護者報告および小児報告の不安症状の減少は有意ではなかった)10。効果と忍容性はSSRIの方が高いため8,SSRIを2種類試みて無効であった場合に,SNRIを不安障害の第三選択として検討できる。
  • 5-HT1A作動薬buspironeは1件の短期間のRCT(治療群334例,対照群225例)で検討されたが,プラセボに対する治療反応のオッズ比[1.3(95%CI=0.7-3.4)],不安症状の改善の平均オッズ比[0.8(95%CI=-3.1-4.8)]はいずれも有意ではなかった13
  • α2作動薬のグアンファシンは,1件の短期間のRCT(治療群62例,対照群21例)で検討され,プラセボに対する治療反応のオッズ比[5.6(95%CI=1.4-26.8)]は有意であったが,不安症状改善の平均オッズ比は有意ではなかった[3.4(95%CI=-3.2-10)]14
  • ベンゾジアゼピン系薬剤および三環系抗うつ薬の使用は,小児を対象とした比較試験では支持されていない8。ベンゾジアゼピン系薬剤は一部の小児期の患者では奇異反応的な脱抑制を起こす可能性がある。しかしながら,SSRI導入時の用量調節をする際に不安症状による機能障害を緩和するために,また急速鎮静の目的で,実臨床では長時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤の使用が考慮されることもある(表5.5参照)。

表5.5 小児・青年期不安障害の治療に対して使用される薬剤の典型的な用量

薬剤 開始量 用量の範囲
SSRI
セルトラリン 12.5-25mg 25-200mg,1日1回
fluoxetine 5-10mg 10-60mg,1日1回
フルボキサミン 12.5-25mg 50-200mg,1日1回
(50mgを超える場合は1日2回)
パロキセチン 5-10mg 10-40mg,1日1回
citalopram 5-10mg 10-40mg,1日1回
SNRI
ベンラファキシンXR 37.5mg 37.5-225mg,1日1回
デュロキセチン 30mg 30-120mg,1日1回
α2作動薬
グアンファシン 1mg 1-6mg,1日1回
5-HT1A部分作動薬
buspirone 5mg,1日3回 15-60mg,1日1回
ベンゾジアゼピン系薬剤(頓用)
クロナゼパム 0.25-0.5mg
ロラゼパム 0.5-1mg

RCTのエビデンスによる支持はない。
注:British National Formulary for Children(英国) 等の公式ガイドラインの最新版を必ず確認する。

処方後
  • 急性期
    • 使用可能な最低用量で開始する。
    • 副作用をモニタリングする。一般に若年者の不安障害ではSSRIの忍容性は良好である。心理的副作用には不安症状の悪化,激越,脱抑制がある。身体的副作用として消化管症状(例:悪心,嘔吐,消化不良,腹痛,下痢,便秘),頭痛,運動活動性増加,不眠等が,多くの場合は軽度で一過性ながら出現することがある。
    • SSRI投与開始の1週間(SNRIの場合2週間)後,小児が薬物療法を遵守し,投与による副作用がほとんど現れていなければ,週1回の頻度で最低治療用量まで漸増する。
    • 副作用(前述を参照)および反応性を頻回かつ系統的にモニタリングする(例:RCADS,SCARED,MASC,CGAS,CGI-I)。
    • SSRIは小児における代謝が速いため,成人と同程度の用量となることが多い。
    • 治療効果は治療開始から6-8週間後までに現れるはずである。このような情報を家族に伝えておくことが重要である。
    • 効果が部分的または無効だった場合には,診断が適切であったか,投薬が十分であったか,および患者のアドヒアランスはどうであったかを検討する。
    • 治療反応を改善するために,CBTの併用,薬剤の切り替え(例:SSRI間の切り替え,他クラス薬剤への切り替え),薬剤の併用(例:併存疾患の治療,副作用の治療,作用増強のため)を検討する。buspirone,ベンゾジアゼピン系薬剤,非定型抗精神病薬,精神刺激薬による増強療法が提案されているが,実証的な裏付けがない7
  • 維持期
    • 症状の安定した状態で,維持療法を少なくとも1年間継続する。
    • 治療反応と副作用を定期的にモニタリングする。
  • 中止期
    • 長期的な安全性に関する情報がなく,年齢や学習によって症状が改善する可能性があるので,安定した状態が続いたら治療の中止を検討する。投薬中止はストレスや負担が少ない時期に開始すべきである。また,効果がみられなくなった場合や副作用が重度の場合にも投薬中止を検討すべきである。離脱症状のリスクを最小限にするために,SSRIは緩徐に(例:週に25-50%)減量する。症状の再発や再燃を綿密にモニタリングし,悪化を認めた場合にはすぐに投薬を再開する。
特有の問題

未就学児の不安障害の治療は,ルーチンとして心理療法を中心としなければならない。稀ではあるが,非常に低年齢の小児で急速に進行性の症状や機能障害がみられる場合には,臨床医は診断とケースフォーミュレーションを再考し,心理療法が十分に行われたかを再評価すべきである。症例報告ではfluoxetine とbuspironeが有効である可能性が示唆されているものの,未就学児の不安障害を対象とした薬物療法を検討したRCTはない15。このため,未就学児における処方はすべて適応外使用となる16


<編集協力者コメント>

上述の通り,小児・青年期において,不安は非常に頻度の高い問題である。小児・青年期の精神科臨床に携わる以上,不安のマネジメントにおける薬物療法以外の選択肢を複数持つことは必須といえる。なお,セルトラリン,デュロキセチン,フルボキサミンの用量が本邦と異なる点,本邦では体重によってグアンファシンの用量調整を行う点に注意を要する。

(加治 正喬)

参照文献
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