モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

Chapter 2 Bipolar disorder双極性障害

リチウム

作用機序

リチウムは周期表の3番目の元素で,水素およびナトリウムと同じ列にある。リチウムは生物学的過程に広範に関与している可能性があり,また他にも多くの作用があるため,気分や行動の制御におけるリチウムの主な作用機序を解明することは非常に難しいことがわかっている。例えば,双極性障害患者では対照群と比較してナトリウムやカルシウムの細胞内濃度が高く,リチウムはこれらを低下させるというエビデンスが古くからある。興味深いことに,双極性障害(BD)を対象とした遺伝学研究では,カルシウム関連遺伝子の関与が示されている1。グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3),cAMP応答配列結合蛋白質(CREB)およびNa(+)/K(+)ATPアーゼに関連する機序がリチウムの作用に重要である可能性がある。リチウムの作用機序に関する最近のレビューについてはAlda2を参照のこと。リチウムはニューロンおよび神経回路の機能を維持する神経保護作用を有する可能性がある3。また,リチウムは海馬における新しいニューロンの新生も促進し(神経新生),これが学習,記憶,ストレス反応に重要な役割を果たす可能性がある4。リチウムの神経保護作用の可能性を示唆した古い文献は主に,in vitro試験または動物実験によるものであるが,メタ解析ではリチウムが認知症への移行を予防する可能性が示唆されている5。しかし注目しなければならないのは,可逆性および非可逆性の神経毒性が,リチウムに関連する副作用として認識されている点である6, 7。リチウムは環境(例:飲料水)に低濃度で存在し,環境中のリチウムは集団レベルでの自殺率および認知症率と逆相関を示すことが報告されている8, 9

臨床適応

躁病の急性期治療

リチウムは,血漿中濃度0.8-1.0mmol/Lで躁病の治療に効果がある10。より迅速な作用が必要である場合,躁病の治療に関してエビデンスがある抗精神病薬による補助療法または単剤療法が推奨される10。リチウムは血漿中濃度が治療域に到達するまでに時間がかかり,患者が協力的でない場合にはモニタリングが困難な場合がある。治療が最も奏効するのは,精神病症状または急速交代型の所見がない場合と考えられる11

すでに長期間リチウムを投与している患者における急性躁病の治療

英国精神薬理学会(BAP)ガイドライン10では,再燃時にはリチウム療法のコンプライアンスの程度を知るために緊急的に血漿中リチウム濃度を測定し,用量調節の可能性について情報を得るべきであることが提案されている。リチウム濃度の測定値からコンプライアンス不良が明らかである場合,その理由を解明する。リチウム濃度が至適であることが確認されたのに躁病のコントロールが不十分である場合,ドパミン拮抗薬,ドパミン部分作動薬またはバルプロ酸の追加が推奨される10

双極性うつ病

リチウムは双極性うつ病に広く使用されているが,堅固な有効性を支持するエビデンスは少ない12, 13。うつ病エピソードの予防に関するエビデンスにはより説得力がある。

双極性障害の維持療法

リチウムの血漿中濃度0.6-0.8mmol/Lの範囲で忍容される最高濃度を目標とし10, 14,反応は良好であるが忍容性が不良の場合は0.40-0.60mmol/Lへの減量,反応は不十分であるが忍容性は良好な場合は0.80-1.00mmol/Lへの増量を選択できる。治療の目的は,躁病エピソードとうつ病エピソードの両方の完全寛解である15。リチウムは臨床において,双極性障害の治療成績が最も優れた薬剤であるかもしれない。Hayesら16は以下の薬剤による単剤維持療法を処方された双極性障害患者5,089例を対象に,前方視的な解析を行った。内訳は,リチウム(n=1,505),オランザピン(n=1,366),バルプロ酸(n=1,173),クエチアピン(n=1,075)であった。各コホートの患者の75%がこれらの単剤療法で無効となった時期は,リチウムで2.05年,オランザピンで1.13年,バルプロ酸で0.98年,およびクエチアピンで0.76年であることが明らかにされた16

単極性うつ病における抗うつ薬の増強療法

単極性うつ病患者の約30-50%は第一または第二選択の抗うつ薬投与で効果が得られず,「治療抵抗性うつ病」の転帰は不良である17。抗うつ薬によるうつ病性障害治療のエビデンスに基づくガイドライン(例:Cleareら18)では,リチウムまたはクエチアピンが既存の抗うつ薬の増強療法の第一選択であること,および選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはベンラファキシンのリチウム増強療法が,リチウムの血漿中濃度0.6-1.0mmol/Lで最も有効であると提示している。リチウムとクエチアピンのいずれが増強薬として優れているかを1年間の追跡期間において決定するため,治療抵抗性うつ病におけるリチウムとクエチアピンによる増強療法の比較を目的に,実臨床を反映した直接比較並行群非盲検多施設共同無作為化試験が進行中であり,2021年に報告される予定である19。治療抵抗性うつ病に対するリチウム増強療法の良好な転帰と関連する臨床的予測因子は,重度のうつ病症状,精神運動遅滞,著明な体重減少,大うつ病の家族歴,過去に3回を超えるエピソードの経験であった20。当然,リチウム増強療法のコンプライアンスもこのリストに加えるべきだろう。

単極性うつ病の予防療法

単極性うつ病の長期治療におけるリチウムの使用について,最近レビューが行われた21。Ciprianiら(2006)22は8件の無作為化比較試験(RCT)(n=475)を解析し,リチウムが入院を必要とする再燃の予防において抗うつ薬よりも有意に優れており,相対リスクは0.34であることを明らかにした。Abou-Salehら(2017)23は単極性うつ病におけるリチウムによる予防療法について,5年以内に2回のうつ病エピソードがある場合,1回のエピソードが重度であり強い自殺リスクがある場合に行うこと,また特に双極性障害が背景にあると疑われ,アドヒアランスと副作用が問題ではない場合には無期限に行うことを提唱している。

その他のリチウムの使用方法

リチウムは,攻撃性や自傷行為の治療にも用いられており,最近の研究では,ステロイド精神病の予防と治療25,クロザピン投与中の患者における白血球(WBC)数の増加26について有益性が確認されている24

リチウムと自殺

双極性障害患者の最終的な自殺率は15%と推定されている27。臨床試験のメタ解析では,リチウムは双極性障害患者の自殺企図と自殺既遂の危険性を80%減少させたと結論付けている28。大規模データベース研究では,リチウムによる治療を受けている患者は,他の気分安定薬による治療を受けている患者と比べて自殺既遂が少ないことが示されている29

リチウムは単極性うつ病の患者においても自殺を予防すると考えられるが,リチウムの自殺に対する予防効果の機序は不明である28。先にも述べたように,環境中のリチウムは集団レベルでの自殺率と逆相関を示すことが報告されている8

血漿中濃度

予防としての最小有効血漿中濃度は0.4mmol/L,至適濃度は0.6-0.8mmol/Lである30。0.75mmol/Lを超える濃度では,躁症状に対してのみ予防効果が増強する31。したがって,予防療法の目標濃度範囲は0.6-0.8mmol/Lである14。血漿中濃度の変動は再燃リスクを悪化させると考えられる31。単極性うつ病における至適血漿中濃度は十分には明らかになっておらず,この分野における研究が待たれる21

小児・青年期では,中枢神経系(CNS)で十分なリチウム濃度を達成するために,成人より高い血漿中濃度が必要となるかもしれない32

リチウムは消化管から速やかに吸収されるが,分布相は長時間にわたる。徐放剤を1日1回就寝時に服用している患者では,服用から10-14時間後(理想的には12時間後)に採血してリチウムの血漿中濃度を測定すべきである10

剤形

英国で最も広く処方されているリチウム製剤であるPriadelとCamcolitの薬物動態に臨床的に意義のある差はない。Priadelを製造する英国の製薬会社は同製剤を販売中止しようとしたが,現時点では審査中である33。他の製剤は生物学的に等価とみなすことはできないので,製剤毎に処方しなければならない。

  • 炭酸リチウム400mg錠1錠は10.8mmolのリチウムを含む。
  • クエン酸リチウム液剤には2種類の力価があり,1日2回投与する。
    • 5.4mmol/5mLの製剤は炭酸リチウム200mgと等価
    • 10.8mmol/5mLの製剤は炭酸リチウム400mgと等価

液剤を使用する場合は,どちらの製剤を処方したのかを確認しないと治療量以下になったり,中毒量になったりするおそれがある。

副作用

ほとんどの副作用は,用量および血漿中濃度に関連する。副作用としては,軽度の胃腸障害,微細な振戦,多尿,多飲症等がある。多尿の頻度は1日2回投与の方が高い可能性がある34, 35。プロプラノロールはリチウムによる振戦に有用と考えられる。リチウムは乾癬やざ瘡等の皮膚病変を増悪させることがあり,金属味,足関節浮腫,体重増加の原因となることもある。

リチウムは尿濃縮能を低下させ(腎性尿崩症),結果的に口渇と多尿を起こすことがある。通常,この作用は短期から中期的には可逆性であるが,長期(>15年)にわたってリチウムを服用すると腎臓に対する作用は不可逆性になることもある36。また,リチウムは糸球体濾過量(GFR)を低下させることがあるが,このリスクの大きさは不明である36。リチウムの血漿中濃度が0.8mmol/Lを超えると腎毒性のリスクが高くなり,長期のリチウム投与には腎機能の定期的モニタリングが必要である37

長期的な観点では,リチウムは甲状腺機能低下症のリスクを増加させ38,中年女性でのリスクは最大20%の可能性がある39。この患者群では,リスクを正確に推定するために,リチウムを開始する前に甲状腺自己抗体を検査し,投与開始後1年間は甲状腺機能検査(TFT)を頻回に行う40。甲状腺機能低下症はチロキシンで容易に治療できる。通常,リチウムを中止するとTFT値は正常に戻る。また,リチウムは比較的稀にではあるが,甲状腺機能亢進症および副甲状腺機能亢進症のリスクを増加させ,治療が長期にわたる場合にはカルシウム値のモニタリングが推奨されることもある41, 42。血清カルシウム濃度が慢性的に上昇すると,臨床的には腎結石,骨粗鬆症,消化不良,高血圧,腎機能障害等が生じる。リチウムの毒性プロファイルについてはMcKnightらのレビュー41を参照のこと。

リチウムの毒性

リチウムの血漿中濃度が1.5mmol/Lを超えると確実に毒性が生じ,通常は消化管に対する作用(食欲不振,悪心,下痢の増加)と,CNSに対する作用(筋力低下,傾眠状態,錯乱,運動失調,粗大振戦,筋れん縮)がみられる43。血漿中濃度が2mmol/Lを超えると失見当識やけいれん発作が起こることが多く,進行して昏睡,そして死に至ることがある。重篤な症状が生じた場合には,浸透圧利尿またはアルカリ強制利尿を行うべきである(サイアザイド系やループ利尿薬は絶対に用いないこと)。血漿中濃度が3mmol/Lを超えると腹膜透析または血液透析を行うことが多い。上記の血漿中濃度は指標に過ぎず,毒性の症状の出やすさには個人差がある。脳内リチウム濃度は血漿に反映されない可能性があるため,血漿中濃度が正常であっても神経毒性が報告されたことがある44, 45

毒性の危険因子の多くは,ナトリウム濃度の変化または体内でのナトリウム処理[例えば,減塩食,脱水,薬物相互作用(要約表参照),およびアジソン病等の稀な身体疾患]と関連する。

リチウムの投与を開始する場合は,毒性を示唆する症状と一般的な危険因子に関する情報を必ず患者に説明すべきである46。この説明は適切な間隔で何回か行い,きちんと理解しているか確認すべきである。

治療前検査

リチウムを処方する前に,腎機能,甲状腺機能,心機能を検査すべきである(表2.1参照)。最低限,推算GFR(eGFR)47と甲状腺機能は確認しなければならない。既存の心血管疾患,またはその危険因子がある場合には心電図(ECG)も推奨される。投与開始前に体重も測定することが望ましい。

表2.1 リチウム:処方とモニタリング

適応 躁病,軽躁病,双極性感情障害および反復性うつ病の予防。攻撃性と自殺傾向の低減
処方前検査 eGFRと甲状腺機能検査(TFT)。既存の心血管疾患またはその危険因子がある場合にはECGも推奨される。投与開始前に体重を測定することが望ましい
処方 開始用量は就寝前400mg(高齢者は200mg)である。7日後に血漿中濃度を測定し,以後は用量の変更毎に7日後に測定して目標濃度(有効となる可能性があるのは,単極性うつ病で0.4mmol/L,双極性障害で0.6-1.0mmol/L,治療困難な躁病ではこれよりも若干高い濃度)に達するまで増量する。最終投与から12時間後に採血を行う。液剤を処方する場合は必要な力価を明確にする必要がある
モニタリング 血漿中リチウム濃度を6ヵ月毎に測定する(相互作用のある薬剤を併用している場合,高齢の場合,腎機能障害や他に関連する身体疾患が確認されている場合はより頻回に行う)。6ヵ月毎にeGFRとTFT。体重(またはBMI)もモニタリングする
中止 少なくとも1ヵ月,望ましくは3ヵ月かけて漸減する
血漿中濃度の減少幅は0.2mmol/Lを超えないようにする

リチウムはヒトに対する催奇形性物質であるといわれている。妊娠可能な女性には,確実性の高い避妊法を勧めるべきである。Chapter 7の向精神薬と妊娠に関する項を参照。

治療中のモニタリング10

BAPガイドラインでは,リチウムを処方する前に,投与前のeGFR,甲状腺機能,カルシウムを確認すべきであると推奨している。血漿中リチウム濃度,eGFRおよび甲状腺機能は6ヵ月毎に確認する。相互作用のある薬剤を使用している場合,高齢者の場合,慢性腎臓病が確認されている場合には,検査の回数を増やす必要があるだろう。リチウムを使用する際の生化学的モニタリングの重要性について,National Patient Safety Agencyより患者の安全性に対する警告が出されている48。体重[または体格指数(BMI)]もモニタリングすべきである。英国では,実臨床でリチウムのモニタリングが適切に行われているとはいえないが49,徐々に改善されているようである50。自動化された注意喚起システムによりモニタリング率が改善することが示されている51

中止

リチウムを間欠的に使用すると,双極性障害の自然経過を悪化させる可能性がある。突然中止すると,最初の数ヵ月間で予想よりもはるかに多く躁病の再燃が認められ52,これは5年間症状がなかった患者でも同様である53。このため,少なくとも3年間は継続する明確な意思がなければ,リチウムによる治療は開始すべきではないと推奨されている54。すなわち,急性期で患者が治療に納得していない場合(またはコンプライアンス不良がわかっている場合)は,リチウムの投与は慎重に検討すべきである。

再燃のリスクは,少なくとも1ヵ月かけて徐々に減量することと55,減少幅がリチウムの血漿中濃度で0.2mmol/Lを超えないようにすること31で軽減できる可能性がある。これらの推奨とは対照的に,観察研究では,寛解状態が少なくとも2年間続いた後に時間をかけてリチウムを中止しても,継続した群と比べて再発率は少なくとも3倍になり,その後何年にもわたって生存率に有意な差がみられた。中止前にリチウムの高い血漿中濃度が維持されていた場合は特に再燃する傾向があった56

米国のある大規模な処方記録の研究によると,リチウムを処方された場合は半数の患者が処方量のほぼすべてを服用し,1/4の患者は50-80%を服用し,残りの1/4の患者は50%未満しか服用していなかった。さらに,1/3の患者は合計6ヵ月未満しかリチウムを服用していなかった57。ある大規模な監査では,リチウムの処方を長期間受けている患者の10例に1例は血漿中濃度が治療域に達していなかった58。実臨床では,アドヒアランス不良がリチウムの効果を限定的にしていることは明らかである。あるデータベース研究は,どの程度リチウムを服用しているかが自殺のリスクに直接関連していることを示唆している(リチウムがより多く処方されていると自殺率は低い)59

やや説得力は欠けるが,双極性障害でリチウムを中止すると抑うつ症状が出現するというデータもある52。単極性うつ病患者に関するデータはほとんどない。

他の薬剤との相互作用60-62

リチウムの治療域は比較的狭いため,他の薬剤と薬物動態学的相互作用があると,リチウムの毒性が現れる可能性がある。臨床的に重要な相互作用のほとんどは,腎臓のナトリウム代謝に影響を与える薬剤によるものである(表2.2参照)。

表2.2 リチウム:臨床的に関連のある薬物相互作用

薬剤群 作用の大きさ 作用の期間 備考
ACE阻害薬
  • 予測できない
  • リチウムの血漿中濃度が最大4倍に増加する
数週間かけて出現する
  • 高齢者ではリチウムの毒性で入院する危険性が7倍に増加する
  • アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬にも同様のリスクがある可能性がある
サイアザイド
系利尿薬
  • 予測できない
  • リチウムの血漿中濃度が最大4倍に増加する
通常,最初の10日間でみられる
  • ループ利尿薬の方が安全である
  • どのような作用でも最初の1ヵ月間で明らかになる
NSAIDs
  • 予測できない
  • リチウムの血漿中濃度が10%から4倍を超えて上昇する
数日間から数ヵ月間まで様々である
  • NSAIDsは広く頓用で用いられる
  • 処方箋なしで買うこともできる
ACE阻害薬

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は,(1)口渇を減少させるため軽度の脱水が生じる場合があり,さらに(2)腎臓でのナトリウム喪失を増やしてナトリウム再吸収を増加させる場合もあり,これにより,リチウムの血漿中濃度が上昇することがある。この作用の程度は様々で,全く上昇しないこともあれば4倍に上昇することもある。作用が最大域に達するまで数週間かかる場合もある。心不全,脱水,腎機能障害がある患者ではリスクが高くなると考えられる(体液の平衡や処理の変化によると考えられる)。高齢者では,ACE阻害薬によりリチウム毒性が生じて入院するリスクは7倍になる。ACE阻害薬は腎不全を促進することもあるため,リチウムを併用する場合はeGFRと血漿中リチウム濃度の測定回数を増やす必要がある。

ACE阻害薬としては,カプトプリル,シラザプリル,エナラプリル,fosinopril,イミダプリル,リシノプリル,moexipril,ペリンドプリル,キナプリル,ramipril,トランドラプリルがある。

また,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬のカンデサルタン,eprosartan,イルベサルタン,ロサルタン,オルメサルタン,テルミサルタン,バルサルタンにも注意が必要である。

利尿薬

利尿薬はリチウムの腎クリアランスを減少させることがあり,この作用はループ利尿薬よりもサイアザイド系利尿薬の方が強い。通常,サイアザイド系利尿薬が投与されると10日以内にリチウムの血漿中濃度が上昇する。上昇の程度を予測することは不可能で,25-400%と幅がある。

サイアザイド系(または関連の)利尿薬には,bendroflumethiazide,chlorthalidone,cyclopenthiazide,インダパミド,metolazone,xipamideがある。

ループ利尿薬によるリチウム毒性の症例報告があるが,多くの患者でループ利尿薬とリチウムの併用療法が問題なく行われている。相互作用のリスクは,ループ利尿薬が処方されてから最初の1ヵ月間が最も高いと考えられる。したがって,これらの薬剤を併用する際には開始後1ヵ月間はリチウムの血漿中濃度の測定回数を増やすことが推奨される。ループ利尿薬は腎臓でのナトリウム喪失を増加させることにより,ナトリウムの再吸収を増加させる。また,ループ利尿薬の投与を受けている患者は塩分摂取を制限するよう指導されることがあり,このためにリチウム毒性のリスクが増大する可能性がある。

ループ利尿薬には,ブメタニド,フロセミド,トラセミドがある。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

NSAIDsは腎臓のプロスタグランジン合成を阻害し,腎血流を減少させ,腎臓におけるナトリウムとリチウムの再吸収を増加させる可能性がある。個々の患者で増加の程度を予測することは不可能で,症例報告では10%程度-400%超と様々である。作用の発現も数日間-数ヵ月間までと幅がある。腎機能障害,腎動脈狭窄,心不全,および脱水がある患者や減塩食を摂取している患者ではリスクが高くなるようである。リチウムとCOX-2阻害薬の相互作用に関する症例報告は多い。これまでに報告されている通り,NSAIDsはリチウムの治療効果を打ち消さないようである63

NSAIDs(またはCOX-2阻害薬)をリチウムと併用する場合は,(1)頓用ではなく常時服用として処方し,(2)リチウムの血漿中濃度の測定回数を増やすことが必須である。

NSAIDsのなかには処方箋がなくても購入できるものがあるので,患者に相互作用の可能性を説明することが特に重要である。

NSAIDsまたはCOX-2阻害薬としては,aceclofenac,アセメタシン,セレコキシブ,dexibuprofen,dexketoprofen,ジクロフェナク,diflunisal,エトドラク,etoricoxib,fenbufen,fenoprofen,フルルビプロフェン,イブプロフェン,インドメタシン,ケトプロフェン,lumiracoxib,メフェナム酸,メロキシカム,ナブメトン,ナプロキセン,ピロキシカム,スリンダク,tenoxicam,チアプロフェン酸がある。

カルバマゼピン

カルバマゼピンとリチウムを併用した場合の神経毒性の報告は稀にある。報告のほとんどは古いもので,高い血漿中リチウム濃度での治療であった。しかし,カルバマゼピンは低ナトリウム血症を起こす可能性があり,リチウムの貯留や毒性につながる可能性があることに注意する。同様に,SSRIも低ナトリウム血症を起こす可能性があり,CNS毒性が稀に報告されている。


<編集協力者コメント>

本邦では,医薬品医療機器総合機構(PMDA)からは,投与初期または用量を増量したときには,維持量が決まるまで1週間に1回をめどに血中濃度を測定すること,また,維持量投与中は2-3ヵ月に1回をめどに血中濃度を測定することが推奨されている。適切な血中リチウム濃度測定が実施されずに重篤なリチウム中毒に至った場合には,基本的に医薬品副作用被害救済制度における支給対象とならないので十分に注意されたい。

(仁王 進太郎)

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