モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

合成カンナビノイド受容体作動薬(SCRA)

SCRAの臨床的重要性は,(生命を脅かすおそれのある)急性毒性,精神病との関連性,依存症を誘発する傾向に関連したものである。救急科や精神科,依存症治療施設の医師は合成カンナビノイドによる急性中毒を判別し,これを管理できるようにすべきである。

合成カンナビノイド受容体作動薬(SCRA)は,CB1受容体作動薬として作用する,構造的に多様な薬物群である。命名法は複雑で,化学構造が極めて多岐にわたるため分類が困難である1 。様々な新しいSCRAの分類が次々と生まれている2

英国では,SCRAは主としてホームレスや受刑者等の弱い立場にいる人々によって使用されていた。しかし,最近の毒性学的な剖検所見では,新しい世代の使用者の大半が安定した住環境で暮らし,より一般的な多剤乱用の様式の一環としてSCRAを使用していることが示唆される3

SCRAは,アルコールに溶解して植物性の素材にスプレーしたうえで吸引されることが最も多い。1パックのハーブに複数のSCRA合成物が含まれる場合があり,本項執筆時点で700種類を超えるSCRAの俗称があるが,そのなかで最も一般的なものは「Spice」と「K2」である4 。直近で使用していても,SCRAの使用を認めない人が多いかもしれない5 。SCRAは,大麻の精神作用成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)よりもCB1受容体に強力に作用し,作用が長時間持続する。CB1以外にも多様な作用を持ち,臨床反応に影響を及ぼしうる6

SCRAの急性中毒はTHCの場合とは性質が異なり,より重度で,生命を脅かしうる身体への作用を伴う7, 8。英国ではSCRAに関連する死亡が増加しており,これは圧倒的に多剤併用によるものである3 。このことは世界全体での報告とは対照的で,世界ではSCRAは大抵単剤で使用されている9

英国におけるSCRAによる死亡には次のような特徴がある。

  • 心停止または呼吸停止により突然倒れて死亡する
  • 大半が気付かれないまま死亡する
  • 大半の死亡は身体的健康問題がない人で発生している
  • 40%超では剖検でオピオイドが検出される

SCRAは心毒性と関連し,少なくとも一部はQT延長を誘発する10。このため,SCRA使用者,特にメサドンを処方されている使用者にはECGを考慮する。SCRAの過剰摂取をナロキソンでリバースさせることに成功したとの症例報告があり,これはオピオイド系とカンナビノイド系との相互作用に関連するという仮説を示す研究者もいる11

救急治療が必要となるリスクは大麻使用時の30倍であると推定される12。SCRAは精神病を誘発する可能性があり,精神病は中毒後も持続する。使用者の約15%が,依存症状および大麻離脱と同様の離脱症状を報告している。

急性SCRA中毒

急性期では,SCRAの構造的多様性のため尿中薬物検査による判断ができないため,急性SCRA中毒は臨床的に判別する必要がある13。臨床検査が有用である場合もあるが,臨床的に意味のある時間内に結果が得られないかもしれない。救急科受診者を対象とした症例報告5, 7, 8, 14 に基づくSCRA中毒の詳しい特徴を表4.20 に示す。個々の症状の発現とその頻度はばらつきが大きく,SCRAの化学的多様性を反映しているかもしれない。最もよくみられる症状は,激越,悪心,頻脈のようである。中毒は通常短時間であり,78%が8時間以内に消失する5 。精神病性エピソードが誘発されることが多く,救急救命科(A&E)を受診した急性中毒患者の41%に精神病症状が認められた14

表4.20 急性SCRA中毒の特徴

影響を受ける器官
心血管系 頻脈
高血圧
徐脈
低血圧
胸痛―心筋虚血を誘発しうる
心停止
消化器系および腹部器官 悪心
嘔吐―多くの場合大量
腹痛
肝毒性
急性腎損傷─急性腎尿細管壊死および急性間質性腎炎
神経系 激越
不安
攻撃性
錯乱
精神病症状─中毒後も持続しうる
けいれん発作
昏睡
姿勢保持を伴う緊張病
その他 結膜充血
横紋筋融解

急性SCRA中毒の管理

  • 適切な環境で治療を行うべきである
  • ECGによる心臓モニタリングで虚血および不整脈を検査する
  • 血液検査─血液ガス,尿素と電解質(U&E),クレアチンキナーゼおよびLFT
  • ベンゾジアゼピン系薬による保存的治療
  • 静脈内輸液,酸素補給,制吐薬
  • 稀に抗精神病薬または麻酔薬

安心できる点としては,SCRA中毒に対する抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬剤の使用はいずれも心血管系の副作用に関連せず,抗精神病薬はけいれん発作の発生率上昇を伴わない15

SCRA関連精神病の管理

SCRA中毒では精神病症状がよくみられ,そのうち30%は急性中毒の後も持続する16

SCRA関連精神病には次のような特徴がある。

  • 大麻関連精神病と比較して,陽性症状が顕著である
  • 大麻関連精神病と比較して,陰性症状が顕著でない
  • 躁病の特徴が認められることが少ない
  • 自殺念慮に関連することが多い
  • 精神科に入院して行動障害の管理が必要となる可能性がある
  • 大麻関連精神病と比較して,より高用量の抗精神病薬が必要となる(抗精神病薬の平均用量はハロペリドール等価換算で11mg/日。なお,大麻使用患者では6mg/日,大麻もSCRAも使用していない患者では3mg/日)17
  • 大麻関連精神病と比較して,より長期の治療を要する

SCRAによる急性行動障害(ABD)の治療については,本Chapterの「救急入院患者における薬剤誘発性の急性行動障害(ABD)」の項を参照のこと。

SCRA依存症および離脱の管理

SCRA依存症は症例研究や調査で報告されており,SCRAの方が大麻よりも高力価であることからも,大麻よりも依存症発生率が高くなるであろう。SCRA依存症に対しては緩徐な減量を目的とし,動機付け面接のテクニックや薬物日誌を用いた一般的な心理社会的依存症治療のアプローチが推奨される。より低力価な(つまり有害性の低い)大麻への切り替えについては,大麻はSCRA離脱症状を緩和しないという報告があることを考慮すると,助言は慎重にすべきであり18,また,患者にはその法的意味を十分に理解させる必要がある(大麻所持が法律違反である一方,大部分のSCRAの所持はそうではない)。

何ヵ月間にもわたって毎日SCRAを使用していた患者では,次のような生理学的離脱症候群が発生し,数日間持続する。

  • 睡眠障害
  • 奇妙な夢
  • 不穏
  • 不安
  • 薬物渇望
  • 悪寒戦慄
  • 筋けいれん
  • 血圧および心拍数の上昇

ベンゾジアゼピン系薬剤による治療は,有効であるという報告もあれば無効であるという報告もある。低用量のクエチアピン(50mg)はベンゾジアゼピン無効例で有効であった19

(内田 貴仁)

参照文献
  1. Potts AJ, et al. Synthetic cannabinoid receptor agonists: classification and nomenclature. Clin Toxicol (Phila) 2020; 58:82–98.
  2. Alam RM, et al. Adding more ‘spice’ to the pot: A review of the chemistry and pharmacology of newly emerging heterocyclic synthetic cannabinoid receptor agonists. Drug Test Anal 2020; 12:297–315.
  3. Yoganathan P, et al. Synthetic cannabinoid-related deaths in England, 2012–2019. OSF 2020.
  4. European Monitoring Centre for Drugs and Drug Addiction. Synthetic cannabinoids. 2020; https://www.emcdda.europa.eu/topics/synthetic-cannabinoids_en.
  5. Abouchedid R, et al. Analytical confirmation of synthetic cannabinoids in a cohort of 179 presentations with acute recreational drug toxicity to an Emergency Department in London, UK in the first half of 2015. Clin Toxicol (Phila) 2017; 55:338–345.
  6. Fattore L. Synthetic cannabinoids – further evidence supporting the relationship between cannabinoids and psychosis. Biol Psychiatry 2016; 79:539–548.
  7. Tait RJ, et al. A systematic review of adverse events arising from the use of synthetic cannabinoids and their associated treatment. Clin Toxicol (Phila) 2016; 54:1–13.
  8. Hoyte CO, et al. A characterization of synthetic cannabinoid exposures reported to the National Poison Data System in 2010. Ann Emerg Med 2012; 60:435–438.
  9. Giorgetti A, et al. Post-mortem toxicology: a systematic review of death cases involving synthetic cannabinoid receptor agonists. Front Psychiatry 2020; 11:464.
  10. Hancox JC, et al. Synthetic cannabinoids and potential cardiac arrhythmia risk: an important message for drug users. Ther Adv Drug Saf 2020; 11:2042098620913416.
  11. Jones JD, et al. Can naloxone be used to treat synthetic cannabinoid overdose? Biol Psychiatry 2017; 81:e51–e52.
  12. Winstock A, et al. Risk of emergency medical treatment following consumption of cannabis or synthetic cannabinoids in a large global sample. J Psychopharmacol 2015; 29:698–703.
  13. Novel Psychoactive Treatment UK Network (NEPTUNE). Guidance on the clinical management of acute and chronic harms of club drugs and novel psychoactive substances 2015; http://neptune-clinical-guidance.co.uk/wp-content/uploads/2015/03/NEPTUNE-Guidance-March-2015.pdf.
  14. Monte AA, et al. Characteristics and treatment of patients with clinical illness due to synthetic cannabinoid inhalation reported by medical toxicologists: a toxic database study. J Med Toxicol 2017; 13:146–152.
  15. Gurney SM, et al. Pharmacology, toxicology, and adverse effects of synthetic cannabinoid drugs. Forensic Sci Rev 2014; 26:53–78.
  16. Hobbs M, et al. Spicing it up – synthetic cannabinoid receptor agonists and psychosis - a systematic review. Eur Neuropsychopharmacol 2018; 28:1289–1304.
  17. Bassir Nia A, et al. Psychiatric comorbidity associated with synthetic cannabinoid use compared to cannabis. J Psychopharmacol 2016; 30:1321–1330.
  18. Nacca N, et al. The synthetic cannabinoid withdrawal syndrome. J Addict Med 2013; 7:296–298.
  19. Castaneto MS, et al. Synthetic cannabinoids: epidemiology, pharmacodynamics, and clinical implications. Drug Alcohol Depend 2014; 144:12–41