モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

小児・青年期の強迫性障害(OCD)と身体醜形障害(BDD)

小児・青年期の強迫性障害(OCD)および身体醜形障害(BDD)の治療の原則は,成人と同様である(Chapter 3参照)。BDDは現在,DSM-5およびICD-11のいずれでもOCDスペクトラム障害の1つとして認識されている。CBTはいずれの患者群にも有効で,第一選択としてNICEが推奨しているが1, 2,薬物療法と併用してもよい3。青年期年齢層の少なくとも2%がBDDを呈するが一貫して過小診断されている4。NICEは自殺・自傷企図,抑うつ症状,社会恐怖症,アルコールまたは物質濫用,OCDまたは摂食障害の症状が認められる患者,または軽度の醜形や傷があり美容整形術または皮膚整形術を望んでいる患者などの高リスク集団を対象に,BDDについて質問をするルーチンのスクリーニングを推奨している5

薬物治療

セルトラリン6-8(6歳から使用可)とフルボキサミン(8歳から使用可)は,英国では若年者のOCDの治療に対して承認された選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)である。20年間にわたる研究で,プラセボ対照試験での小児患者におけるSSRIの有効性が確認されている。若年者を対象とした薬物治療のRCT 12件のメタ解析によると,薬物治療は一貫してプラセボと比較して効果が有意に高かった9。セルトラリンとfluoxetineは同等に有効であるが,フルボキサミンはそれらよりいくらか有効性が低いかもしれない9。当初,あるメタ解析では,若年者のOCD治療において,SSRIは「中」から「大」の効果量があると示唆されたが7,直近の解析が示唆している効果量は約0.43(およそ「小」から「中」の間)である9。パロキセチンは小児および若年者での使用は推奨されない。

クロミプラミンは一部の患者では有用な薬剤と考えられるが,副作用プロファイル(鎮静,口渇,便秘,心臓系副作用の可能性)のため,この年齢層での使用は制限される傾向にある。クロミプラミンが,若年者のOCDの治療においてSSRIよりも有効であるかどうかについては,いまだに議論がある。一般には,SSRIがOCD若年患者に対して第一選択として推奨される薬剤となる。BDDについては,英国では成人と小児いずれに対しても承認された治療薬はない。しかし,BDDの症状としばしば併存する抑うつ症状のいずれに対しても,SSRIの使用で有意な改善が認められたというエビデンスはある10。NICEは小児・青年期の患者のBDD治療にfluoxetineを推奨している。

BDD症例の50%が自分の外見について妄想的な強度の思い込みがあるが,抗精神病薬は有用ではない。成人を対象とした研究によると,そのような思い込みを有する患者は妄想的ではない患者と同様にSSRI単独療法に反応する可能性が高い10

薬物療法の開始

SSRIの症状に対する効果は早くからみられ,投与開始1-2週間後から緩徐に増加していき,プラセボと比べた改善は少なくとも24週間持続する。一部の患者では,OCDまたはBDD症状の変化の前に,気分に対する好ましい効果が認められるかもしれない11。OCDまたはBDDの核となるスキーマに対する効果は,認識できるようになるまでに数週間から数ヵ月間かかることがある。

したがって,英国ではNICEが,OCDまたはBDDに対してSSRIを有効な最大耐量で3ヵ月間使用してから効果判定することを勧めている。これらの時間経過に伴う効果について患者に慎重に説明することが,アドヒアランスに重要と考えられる。さらに,患者より周囲の人々の方が,最も早期の改善徴候に気付くこともある。したがって,臨床で経過をモニタリングする際には,CY-BOCS12またはBDD-YBOCS13等の保護者による定量的評価尺度の使用が有用となるかもしれない。英国精神薬理学会は,有効性が確認されている最低用量で投与を開始し,効果判定は12週間投与を継続後に行うことを提案している14。その後,臨床的に反応が不十分な場合には増量が推奨される。

小児に対するSSRI の処方

2004年,英国医薬品医療製品規制庁(MHRA)は,自殺念慮のリスクを上昇させる可能性があるため,若年者に対するSSRI使用に対して警告を発した15。OCD/BDDの小児でのリスク・ベネフィット比は,うつ病に比べて著しく異なる。治療データの厳密な再分析では,SSRIの有効性は,小児・若年者の中等度のうつ病エピソードより小児OCDに対する方が明らかに高いと認められた16。また,すべての研究にわたって,小児OCDにおける自殺念慮と自殺企図の統合リスクは1%未満であると結論付けられた。これはもちろん重大なリスクであり,十分に説明し,慎重にモニタリングすべきである。未治療のOCDおよびBDDの経過では自然寛解を示す傾向は少なく,支障は多大である。未治療のOCDおよびBDDは自殺既遂のリスクが一般集団と比べて10倍上昇する等,極めて重大な影響をもたらす10, 17。十分に情報を伝えたうえで治療選択を行うには,これらの因子を慎重に考慮し,患者やその保護者または家族と話し合う必要がある。

セルトラリンやフルボキサミン以外の薬剤が適切な注意下で「適応外」使用される場合もある。NICEガイドラインでは5,クロミプラミンは副作用のおそれが大きいことと心臓のモニタリングが必要となることから,OCDの治療にはクロミプラミンを使用する前にSSRIを使用することを推奨している。他の薬剤選択を決める要因としては,他疾患の存在(NICEはうつ病を合併するOCDに対してはfluoxetineを推奨),患者家族における特定薬剤に対する良好な治療反応性,他の問題の有無,費用や入手可能性等があるかもしれない。薬物療法に対するアドヒアランスが問題となる若年者もいるが,一部の事例では製剤の選択で解決できる。例えば,アドヒアランスにむらがある若年者については,半減期が他のSSRIに比べて長いことを考慮すると,fluoxetineによる治療が適しているかもしれない。小児にとって錠剤やカプセルは飲み込みにくいことがあるが,大部分の国では液剤が使用できない。

治療の一環としてCBTを行うことに非常にためらいを覚える若年者もいる。CBTはOCDおよびBDDに対する治療パッケージの根幹であるが,一部の症例では,薬物療法が現実味のある唯一の治療選択肢となるかもしれない。極めて貧弱な洞察力しかない小児や,CBTの利用が特に困難であることが明らかな小児もいる。このなかには,学習障害または自閉症スペクトラム障害を有する患者も非常に多くいる。洞察力はBDD患者の方がOCD患者よりも不良なことが多い。そのような場合,心理療法を行うための動機に影響を及ぼすことがある。エビデンスに基づく治療が薬物療法に限られるような状況でも,CBTを行うための動機や能力を定期的に検討することが不可欠である。

NICEガイドラインにおけるOCDおよびBDDの評価と治療

NICEは2005年に,若年者および成人のOCDおよびBDDに対する,エビデンスに基づいた治療選択のガイドラインを発表した。NICEは,臨床的な重症度と複雑性に合わせて治療を強化していく段階的治療(stepped care)モデルを推奨している5。治療開始前と治療中にCY-BOCSまたはBDD-YBOCSの質問票もしくは他の定量的尺度を用いて重症度や影響を評価することは,モニタリング手段として有用である12

NICEガイドラインによる治療アルゴリズムの概要を図5.1に示す。

図5.1 小児・若年者のOCD またはBDD に対する治療選択肢

CBT:認知行動療法,ERP:曝露反応妨害法,SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬
(NICE ガイドライン5より引用),許可を得て再掲載18

小児期のOCDおよびBDDの治療におけるCBTと薬物療法

最近の研究では,CBTはプラセボより間違いなく優れており,経験豊富なCBTのセラピストによる治療を受けられるよう努力すべきであると示されている。

小児・青年期の患者を対象として,CBT,セルトラリン,および両者の併用の効果を直接比較した主要な研究の結果,小児のOCDではCBT単独またはCBT+SSRIの併用療法から治療を開始すべきであるとNICEは結論付けている2。CBTを初回の単独療法として推奨すべきか,または当初から併用療法として提案すべきかについては,現在も議論が進行中である。国際的には,特にBDD患者については,心理療法と薬物療法との併用が提案される傾向が強まっている。CBT治療パッケージにSSRIを追加すると,経験豊富な療法士と経験不足の療法士の間にみられる,CBT療法単独に対する反応の差を埋め合わせできると考えられる6

一部の小児,特に発達障害を有する小児は,CBTが極度に困難なことがある。多くの症例では,治療プロトコールの個別化の試みが有効となりうる。しかし,一部の小児では,曝露課題中の不安経験に圧倒されてしまうかもしれない。そのような場合,プロプラノロール等のβ遮断薬の使用によって,不安の身体的随伴症状をCBTが継続できる程度にまで緩和できると考えられる。

治療抵抗性の小児OCDおよび小児BDD

無作為化試験のエビデンスでは,薬物療法を行った患者の3/4までは十分な反応がみられることが示唆されている。すなわち,約1/4のOCD患者では,適切なCBTとERPを併用しつつ忍容できる最大用量のSSRIを少なくとも12週間投与しても,効果がみられない。これらの患者では再評価を行い,アドヒアランスの評価を行い,併存疾患を見逃していないかを確認すべきである。効果がみられない患者では,通常,最低1剤はその他のSSRIを試みるべきである。研究によれば,OCD19およびBDD10いずれにおいても,約40%の患者が2番目のSSRIに反応を示すことが示唆されている。効果が限定的であれば,通常は専門医のいる施設に紹介すべきである。OCD患者では,クロミプラミン単剤投与および/または低用量のリスペリドンまたはアリピプラゾールによる増強を検討してもよいだろう18, 20。適切なSSRIを2種類試みても反応がみられなかった患者には,リスペリドンやクロミプラミン等の異なる作用機序を持つ薬剤の使用が有効かもしれないと示唆する研究もある11。最大耐量のSSRIを少なくとも3ヵ月間投与しても効果が不十分であった場合でも,「適応外」治療として低用量の抗精神病薬による増強を行うと有効な可能性があるとするエビデンスがある。残念なことに,OCD成人患者の治療抵抗性の場合には,この増強療法に対して有意義な反応を示す患者は1/3だけである。したがって,データから,OCDに対する増強療法を小児・若年者に適用する場合には注意が必要であることが示唆されている。低用量の抗精神病薬による増強療法は,6週間試行すれば有効性の評価には十分であろう。効果がみられない場合は投与を中止することが重要である。BDDの治療については,同様のエビデンスは存在しない。上述の通り,妄想的な強度の思い込みがあるBDDの方が,抗精神病薬による薬物療法で良好な効果を予想しやすいことに留意する。

治療困難な小児OCDまたは小児BDD例では,自閉症スペクトラム障害(ASD),ADHD,チック障害等が併存していることが多い。治療反応はこれらの併存症によって様々な影響を受ける。例えば,チック障害がある症例では,第二世代抗精神病薬による増強がいくらか奏効するかもしれない。未治療のADHDは,集中力が低いためにCBTの実施が妨げられることが多い。薬物療法等の適切な治療によりADHDへの対処を試みると,CBTへの取り組みが劇的に改善することは極めて多い。治療抵抗性のOCDまたはBDDでは,慎重な臨床評価とケースフォーミュレーションの再考が重要である。併存疾患および広範な心理社会的要因が全体的な治療反応に及ぼす影響について考慮する必要がある。臨床経験から,家族や介護者に対する治療中の十分な支援が重要であることが非常によく示されている。OCDまたはBDDの症状に家族が巻き込まれるパターンを止めるよう,家族を手助けする必要がある場合が多い。

治療期間および長期フォローアップ

OCDを未治療のままにしておくと慢性化する傾向がある。成人を対象とした一連の研究では,薬物療法を中断すると症状が再燃する傾向があることが示されている。併存疾患があると再燃リスクが高いという指摘もある。研究では併存疾患のある患者を除外することが多いため,再燃率は過小評価されている可能性がある。英国のNICEガイドラインでは,若年患者でOCDまたはBDDに対する薬物療法に反応がみられた場合でも,寛解後に治療を6ヵ月間以上継続することを推奨している。臨床経験からは,薬物療法の中止を試みる場合には,患者と家族にわかりやすい方法で,緩徐かつ慎重に行うべきであることが示唆される。薬剤を中止する場合には,臨床評価尺度により慎重に評価を実施しつつ行うべきである。

薬物療法の中止に伴うOCDまたはBDDの症状の悪化は非常に多い。成人および若年者に対し,相当な再燃リスクを低減するために,SSRI薬物療法を長期間継続するかどうか検討するよう助言することが増えている。発達障害患者はしばしば,成功したCBTから得られた教訓の一般化に苦心する。そのため,この患者群には治療後の経過観察において計画的かつ綿密なレビューが有益である。小児期から青年期および成人に至るまで,個々のOCD患者およびBDD患者が必要に応じて医療従事者へアクセスすることができ,治療の機会,およびその他のサポートを受けられることが重要である。NICEでは,OCDまたはBDDが再燃した場合には通常の予約待機枠ではなく,できる限り早く受診することが推奨されている。


<編集協力者コメント>

症状除去に対して強迫的に囚われている患者や家族が多く,薬物療法を単独で行う場合でも,「家族で旅行に行けるくらい不潔恐怖をよくする」といった現実的な目標を共有してから治療を開始する方がよい。また,症状改善に伴って発達障害だけでなく,分離個体化,社会適応,家族ライフサイクルの進展等といった,時節に応じた葛藤が表出されることも稀ではない。

(加治 正喬)

参照文献
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その他の参照文献
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