モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

治療抵抗性統合失調症とクロザピン

クロザピンの投与開始スケジュール

クロザピン─投与計画

クロザピンの副作用の多くは用量依存性であり,増量速度にも関連する。副作用は治療開始時に出現しやすく,重症度も高くなりやすい傾向がある。クロザピン服用歴がない患者では,標準的な維持投与量でも致死的になる可能性がある1。このような問題を最小限にするために,クロザピンは低用量から開始し緩徐に増量することが重要である。

クロザピンは通常,12.5mgの1日1回,就寝前の服用から開始する。低血圧を誘発する作用があるため,最初の6時間は血圧を1時間に1回測定すべきである。最初の投与を夜間に行う場合は通常,血圧の測定は必要ない。2日目には12.5mgを1日2回に増量する。忍容性に問題がなければ,300mg/日に達するまで,25-50mg/日の速度で増量することができる。この場合は通常,2-3週で目標量に達することが可能である。さらに増量する場合は,50-100mg/週の速度で緩徐に増量すべきである。十分な治療とみなすには,血漿中濃度で350µg/Lを目標とすべきだが,治療反応はより低い血漿中濃度でもみられることもある。この血漿中濃度に達するための平均投与量(大きな個人差がある)は,性別や喫煙習慣の有無によっても差が生じる。投与量は概ね250mg/日(非喫煙女性)から550mg/日(喫煙男性)である2。クロザピンは分割投与すべきであり(通常は1日2回),鎮静が問題になるならば夜間の投与量を相対的に多くしてもよい。

クロザピン開始時に提案される投与計画を表1.34に示す。これは慎重な投与計画であり,より急速に増量することもある。鎮静等の用量に関連した副作用が重度の場合,高齢者の場合,非常に若年の患者の場合,身体的に弱っているか他の抗精神病薬で忍容性が乏しかった場合には,緩徐に増量する必要があるかもしれない。ある用量で忍容性が問題となる場合は,問題がなかった用量まで減量する。副作用が改善したら再び増量するが,より緩徐に増量する。

表1.34 クロザピン開始時に提案される投与計画(入院患者)

経過日数 朝の投与量(mg) 夕方以降の投与量(mg)
1 - 12.5
2 12.5 12.5
3 25 25
4 25 25
5 25 50
6 25 50
7 50 50
8 50 75
9 75 75
10 75 100
11 100 100
12 100 125
13 125 125a
14 125 150
15 150 150
18 150 200b
21 200 200
28 200 250c

a非喫煙女性の目標量(250mg/日)
b非喫煙男性の目標量(350mg/日)
c喫煙女性の目標量(450mg/日)

何らかの理由により2日以下の飲み忘れがあった場合は,飲み忘れる前の用量から再開する。遅れを取り戻すために追加で錠剤を投与してはならない。2日を超えた飲み忘れがあれば,用量調節を一からやり直して緩徐に増量する(ただし,初めて投与する患者よりは速く増量する)。クロザピンを中断後に再開する場合に関する項を参照のこと。


<編集協力者コメント>
  • 本邦においては,クロザピンの治療薬物モニタリング(TDM)が2022年4月に保険収載された。
  • クロザピンの血中濃度は性別や喫煙習慣などによる個人差が大きく,より安全かつ効果的な治療を行うためにTDMの普及が望まれる。

(水野 裕也)

参照文献
  1. Stanworth D, Hunt NC, Flanagan RJ. Clozapine – a dangerous drug in a clozapine-naive subject. Forensic Sci Int 2011; 214:e23–e5.
  2. Rostami-Hodjegan A, Amin AM, Spencer EP, et al. Influence of dose, cigarette smoking, age, sex, and metabolic activity on plasma clozapine concentrations: a predictive model and nomograms to aid clozapine dose adjustment and to assess compliance in individual patients. J Clin Psychopharmacol 2004; 24:70–78.