モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

22q11.2欠失症候群

臨床的特徴

最も頻度の高い常染色体欠失である22q11.2欠失症候群(22q11.2DS)は, 多様な症状を呈する多系統疾患であり,重症度はケースによって大きく異なる1。有病率は出生児3,000-5,000 人に1 人と推定されている1。臨床的な表現型が幅広いこともあり(Box 10.2参照),22q11.2 欠失症候群は多くの名称で呼ばれてきた(例:口蓋心臓顔面症候群,DiGeorge 症候群,シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群)。

Box 10.2 22q11.2DSの臨床的特徴1

  • ファロー四徴症等の心血管異常
  • 副甲状腺機能低下症等の内分泌異常
  • 腎無形成等の泌尿生殖器異常
  • 発育遅延および学習障害
  • 便秘等の胃腸障害
  • 免疫不全症および自己免疫疾患
  • 口唇・口蓋部の先天異常
  • 行動障害
  • 精神障害
  • 骨格異常

22q11.2DS症例の精神障害

22q11.2DS 症例の約60%が,一生涯において何らかの精神障害の診断基準を満たすと推定されている2。小児22q11.2DS 例では,不安障害,ADHD,自閉症スペクトラム障害の有病率が高い1。また,成人例では不安障害の有病率が著しく高い1。22q11.2DS 症例の約25%が統合失調症と診断される1

22q11.2DS 症例における向精神薬の安全性および有効性を評価した研究はほとんどない。しかし,ADHD,不安障害,気分障害,統合失調症の標準的薬物療法(および非薬物療法)が有効なようであり,一般集団における治療法に従うべきである1,3 。22q11.2DS 例ではほとんどの向精神薬が安全だと考えられるが,身体疾患の併存(例:心血管疾患),けいれん発作のリスクが上昇する可能性2,運動障害1を考慮する必要がある。内分泌異常(例:副甲状腺機能低下症,甲状腺機能低下症)の症状は精神症状によく似ていることがあり,治療が複雑になりうるため,向精神薬の投与を開始する前に治療しておく必要がある2,3 。22q11.2DS 例の精神障害の治療に関して現在得られているエビデンスおよび見解を表10.6にまとめる。

表10.6 22q11.2DS症例における精神障害の管理4

精神障害 治療法
ADHD
  • 22q11.2DS症例では,精神刺激薬による理論上の精神病症状誘発リスクが懸念されているものの,標準的な治療法が推奨されている2
  • 2 件の研究で,小児の22q11.2DS例におけるメチルフェニデートの有効性が支持されている2。治療の忍容性は概ね良好である。治療開始前および治療中の,心血管系の包括的な評価が推奨されている
うつ病と不安障害
  • SSRI:うつ病と不安障害にはSSRIが奏効するようである2,5。その他は標準的な治療法に従う
  • 1件の小規模RCTではS-アデノシル-L-メチオニンの検討が行われたが,うつ病(あるいはADHD)の症状に有意な効果は認められなかった2
強迫性障害(OCD)
  • OCD を有する22q11.2DS 4 例を対象とした1 件の試験では,fluoxetine(30-60 mg/日)による症状スコアの改善率は平均35%であった。忍容性は良好であった6
統合失調症
  • 一般的に,標準的な治療法に従うことが推奨される3,7。22q11.2DS 例では,抗精神病薬によりけいれん発作やEPSE が発生しやすい可能性がある4。22q11.2DS では肥満のリスクが有意に上昇するため,代謝性副作用を綿密にモニタリングする必要がある8。心臓の異常を有する患者ではQTc 延長のリスクが上昇する4。綿密なECG モニタリングが推奨される4。QT 間隔への影響が少ない抗精神病薬の使用が望ましい4。低用量での投与開始と緩徐な漸増が広く推奨されている4。アリピプラゾール,オランザピン,リスペリドン,クエチアピンが有用であるという症例報告があるが5,多くの症例で治療抵抗性が示されている5
  • クロザピン:22q11.2DS 20 例を対象とした1 件の後方視的研究で有効性が認められている2。マッチさせた対照と比較して,必要とする用量が低かった(中央値で22q11.2DS 群250 mg/日に対し対照群450 mg/日)。しかし,22q11.2DS 群の半数でクロザピンによる重篤な副作用が1 件以上発現し,けいれん発作が主であったが心筋炎や好中球減少症も認められた。数件の症例報告でも,22q11.2DS 例での低用量のクロザピン(中央値200 mg/日)の有効性が支持されているが,けいれん発作(全般発作,もしくはミオクロニー発作)と血小板減少症のリスクも強調されている8。全般的に,クロザピンは通常よりも低用量で有効性が示されるようであるが,重篤かつ稀な有害事象の発現リスクが高いようである2。補助的抗けいれん薬の使用を検討すべきである7,8
  • その他の抗精神病薬によるけいれん発作:カルシウム値およびマグネシウム値が低下していないか検査し,適切な治療を行う7。補助的抗けいれん薬の使用を検討すること7
  • その他の薬剤:カテコールアミン過剰に対して直接作用する薬剤も有効な可能性がある。1件の研究では,登録された29例中22例で,メチロシンの単剤または補助薬としての投与に有効性が認められた9。また,その他にも肯定的な症例報告が発表されている10。メチルドパの有用性を示す症例研究が1 件ある11

(上野 文彦)

参照文献
  1. McDonald-McGinn DM, et al. 22q11.2 deletion syndrome. Nat Rev Dis Primers 2015;1:15071.
  2. Mosheva M, et al. Effectiveness and side effects of psychopharmacotherapy in individuals with 22q11.2 deletion syndrome with comorbid psychiatric disorders: a systematic review. Eur Child Adolesc Psychiatry 2020;29:1035–1048.
  3. Fung WL, et al. Practical guidelines for managing adults with 22q11.2 deletion syndrome. Genet Med 2015;17:599–609.
  4. Baker K, et al. Psychiatric illness. Consensus Document on 22q11 Deletion Syndrome (22q11DS) MaxAppeal 2017; http://www.maxappeal.org.uk/downloads/Consensus_Document_on_22q11_Deletion_Syndrome_Master_2017_(final_draft)_9-end_(1)2018.pdf.
  5. Dori N, et al. The effectiveness and safety of antipsychotic and antidepressant medications in individuals with 22q11.2 deletion syndrome. J Child Adolesc Psychopharmacol 2017;27:83–90.
  6. Gothelf D, et al. Obsessive-compulsive disorder in patients with velocardiofacial (22q11 deletion) syndrome. Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet 2004;126b:99–105.
  7. Bassett AS, et al. Practical guidelines for managing patients with 22q11.2 deletion syndrome. J Pediatr 2011;159:332–339.
  8. de Boer J, et al. Adverse effects of antipsychotic medication in patients with 22q11.2 deletion syndrome: A systematic review. Am J Med Genet A 2019;179:2292–2306.
  9. Faedda GL, et al. 4.19 Treatment of velo-cardio-facial syndrome-related psychosis with metyrosine. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 2016;55:S169.
  10. Engebretsen MH, et al. Metyrosine treatment in a woman with chromosome 22q11.2 deletion syndrome and psychosis: a case study. Int J Dev Disabil 2017:1–6.
  11. O’Hanlon JF, et al. Replacement of antipsychotic and antiepileptic medication by L-alpha-methyldopa in a woman with velocardiofacial syndrome. Int Clin Psychopharmacol 2003;18:117–119.