モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

心房細動─向精神薬の使用

心房細動(AF)は最もよくみられる不整脈である。特に高齢者に多いが,40 歳未満でも相応の割合で起こる可能性がある。危険因子は不安,肥満,糖尿病,高血圧,長期の有酸素運動,多量飲酒である1-3。通常,AF 自体は生命を脅かすものではないが,細動中に心房に血液がうっ滞すると血栓が形成され,脳卒中リスクがかなり高まる4。そのため,ワルファリンやその他の経口抗凝固薬の投与が必須である3

AF は「孤立性」または発作性(稀に生じて自然に洞調律に戻る),持続性[繰り返し生じて長引く(1 週間を超える)エピソードで,通常は一時的にでも治療に反応する],または永続性(治療に反応しない)のいずれかとして定義される。3 つのタイプいずれでも脳卒中リスクは高まる3

治療としては DC ショック,洞調律維持治療(通常はフレカイニド,プロパフェノン,アミオダロン)または,心拍数調節治療(ジルチアゼム,ベラパミル,ソタロール)が行われる。洞調律維持治療の目的は,洞調律を維持することであるが,常に達成できるとは限らない。心拍数調節治療では,AF はそのままにしておき,心室応答を制御して心室が受動的に血液を受け取るようにする。発作性または持続性 AF例に対しては,異常な伝導経路に対するカテーテルや冷凍アブレーション5, 6が現在ルーチンとして行われる有効な処置であり7,多くの患者で効果的に症状を治癒できる。

精神科でも AF に遭遇することが多いが,これは精神科症例において肥満や糖尿病,アルコール乱用の割合が高いことだけが理由ではない。向精神薬を使用する際にはいくつかの要因を考慮する必要がある。

  • 向精神薬と抗凝固薬の相互作用(Chapter 2のSSRIと出血に関する項を参照)
  • 処方した向精神薬の催不整脈性(AF は通常,心血管系疾患の結果として生じる。心臓のイオンチャネルに作用する薬剤はこれらの患者で死亡率を高める可能性があり,特に虚血性疾患を有する症例でリスクが高いと考えられる8, 9
  • 心拍数に対する作用[薬剤によっては,起立性低血圧を起こして反射性頻脈を誘発するもの,直接心拍数を増加させるもの(クロザピン,クエチアピン)がある]
  • 報告されている個別の向精神薬と AF の関連(後に記載する表を参照)
  • 併用中の不整脈治療薬または心拍数調節薬との相互作用のリスク
  • AF が発作性か,持続性か,永続性か(それぞれ AF の発症,AF の遷延,心拍数増加を防ぐようにする)

(吉田 和生)