モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

Chapter 4 Addictions and substance misuse嗜癖および物質乱用

序論

精神作用物質の使用によって精神的な問題や行動的な問題が生じることはよくある。世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD)-10で「精神作用物質使用による精神および行動の障害」として定められているのは,急性中毒,有害な使用,依存症候群,離脱状態,せん妄を伴う離脱状態,精神病性障害,健忘症候群,残遺性および遅発性の精神病性障害,その他の精神および行動の障害,詳細不明の精神および行動の障害である1 。問題となりうる精神作用物質は多岐にわたり,アルコール,オピオイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,γ-ヒドロキシ酪酸(GHB)/γ-ブチロラクトン(GBL),精神刺激薬,新精神作用物質(NPS)(カチノン,合成カンナビノイド,フェニルエチルアミン等),カート,硝酸塩,幻覚剤,蛋白同化ステロイド,タバコ等がある。

物質乱用は,重度の精神疾患を有する患者(いわゆる「二重診断」)やパーソナリティ障害者でよくみられる。成人精神科の多くのケースで,二重診断は例外ではなく一般的である。世界の多くの地域で,物質乱用に関する支援は一般の精神科の支援とは別に提供されていると考えられる。多くの依存症関連の支援におけるケアのモデルでは,参加する意欲のない患者に対して積極的に治療や経過観察を行うことはない。二重診断チームによる治療は誰でも受けられるわけではなく,多くの精神疾患患者で物質乱用に対する治療は十分ではない2

ICD-10によると,依存症候群は「ある個人にとって,ある物質またはあるクラスの物質の使用が,以前はより大きな価値を持っていた行動よりもはるかに高い優先度を持つような,一連の生理,行動,認知における現象」である。過去1年間で以下の項目のうち少なくとも3つが同時に認められる場合にのみ,依存症の確定診断を下すべきである。

  • 物質を使用したいという強い欲求
  • 物質使用を自分でコントロールすることが困難
  • 生理学的離脱状態
  • 耐性の証拠
  • 他の楽しみに関して無関心
  • 有害であるにもかかわらず物質の使用を継続

物質使用障害は一般的に,心理社会的治療と薬物治療を組み合わせて治療すべきである。本Chapterでは,アルコール,オピオイド,ニコチンの使用に対する薬物療法に焦点を当てる。ベンゾジアゼピン系薬剤,GHB/GBL,精神刺激薬,NPS(カチノン,合成カンナビノイド,フェニルエチルアミン等),カート,硝酸塩,幻覚剤,蛋白同化ステロイド乱用者の治療についても簡潔に述べる。まもなく更新される予定の英国精神薬理学会(BAP)のコンセンサスガイドライン4 に加え,英国国立医療技術評価機構(NICE)の様々なガイドラインや技術評価,英国保健省の物質乱用ガイドライン(オレンジブック)3 等もあり,さらに英国公衆衛生庁2 が,物質使用障害の治療法に関する包括的総論を公表している。

(櫻井 準)


参照文献
  1. World Health Organization. International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems. Online version, 2016. http://apps.who.int/classifications/icd10/browse/2016/en.
  2. Public Health England. Better care for people with co-occurring mental health and alcohol/drug use conditions. A guide for commissioners and service providers. 2017. https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/625809/Co-occurring_mental_health_and_alcohol_drug_use_conditions.pdf.
  3. Department of Health and Social Care. Drug misuse and dependence: UK guidelines on clinical management. 2017; https://www.gov.uk/government/publications/drug-misuse-and-dependence-uk-guidelines-on-clinical-management
  4. Lingford-Hughes AR, et al. Evidence-based guidelines for the pharmacological management of substance abuse, harmful use, addiction and comorbidity: recommendations from BAP. J Psychopharmacol 2012; 26:899-952.