モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

向精神薬とシトクロム(CYP)機能

薬剤が CYP 機能に及ぼす影響に関する情報は,規制に従って行われた治験や臨床上での使用では相互作用が検出しきれていない可能性のある疑わしい相互作用の予測や確認に役立つ(「第一原理」からの予測と呼ばれることがある)。本質的に「第一原理」の活用とは,薬物動態の情報を理解,解釈し,in vivoで2剤以上を併用した場合の正味の影響を予測することを意味する。

併用療法がCYP機能に及ぼす影響とは別に,特定の薬剤の代謝における個人差には,一部の酵素経路(例:CYP2D6,CYP2C9,CYP2C19酵素)に関連する遺伝子多型も関与すると考えられる。

一部の薬剤は複数の酵素によって代謝され,ある酵素経路が阻害されても,別の経路が補う可能性があるため,遺伝子多型や薬物動態学的相互作用の影響を予測することは難しい。

また,CYP機能のみならず他の機序も考慮しなければならない。P糖蛋白(P-gp)は腸壁に存在する薬物トランスポーター蛋白である。P-gpは,腸壁を通って拡散(受動的プロセス)する薬物を排出(能動的プロセス)する。P-gpは精巣や血液脳関門にも存在する。P-gpを阻害する薬剤は,P-gpの基質となる薬剤の取り込みを増加させ,P-gpを誘導する薬剤は,こうした薬剤の取り込みを低下させると予測される。CYP3A4の基質となる薬剤の多くは,P-gpの基質でもあることが明らかにされている。

UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)は第2相(抱合)反応を担う酵素である。バルプロ酸はUGTを強力に阻害するため,主にUGTによって代謝されるラモトリギンと相互作用を起こす。UGT酵素はlumateperone,オランザピン,トピラマート,trifluoperazineの代謝にも関与する。

以降の表において,太字で強調した薬剤は以下に該当する。

  • 主な代謝酵素の経路,または
  • 主な酵素活性(阻害または誘導)

アスタリスク()を付した薬剤は以下に該当する。

  • マイナーな代謝酵素の経路または酵素活性であることが知られている(臨床的意義は示されていない)。

通常表示の(太字でなく,アスタリスクも付されていない)薬剤は以下に該当する。

  • その代謝酵素の経路または酵素活性について,意義が不明確であるか不明である。

注:CYP機能に関する情報は各製品概要(SPC)と米国の添付文書(2020年8月に入手),および最近のシステマティック・レビュー1から得たものである。

表では,向精神薬以外の薬剤がCYP機能に与える作用については記載していない。

CYP1A2

基質 阻害薬 誘導薬
agomelatine
アミトリプチリン
アセナピン
bupropion
カフェイン
クロルプロマジン
クロミプラミン
クロザピン
デュロキセチン
フルフェナジン
フルボキサミン
イミプラミン
メラトニン
ミルタザピン
オランザピン
ペルフェナジン
?ピモジド
ラメルテオン
ゾルピデム
フルボキサミン
moclobemide
ペルフェナジン
「バルビツール酸系薬剤」
カルバマゼピン
モダフィニル
フェノバルビタール
フェニトイン

CYP2A6

基質 阻害薬 誘導薬
bupropion
カフェイン
ニコチン
tranylcypromine フェノバルビタール

CYP2B6

基質 阻害薬 誘導薬
bupropion
メサドン
ニコチン
セルトラリン
fluoxetine
フルボキサミン
メマンチン
パロキセチン
セルトラリン
カルバマゼピン
モダフィニル
フェノバルビタール
フェニトイン

CYP2B7

基質 阻害薬 誘導薬
ブプレノルフィン 知られていない 知られていない

CYP2C8

基質 阻害薬 誘導薬
ゾピクロン 知られていない 知られていない

CYP2C9

基質 阻害薬 誘導薬
agomelatine
アミトリプチリン
bupropion
fluoxetine
ラモトリギン
フェノバルビタール
フェニトイン
セルトラリン
バルプロ酸
fluoxetine
フルボキサミン
モダフィニル
バルプロ酸
カルバマゼピン
セントジョンズワート

CYP2C19

基質 阻害薬 誘導薬
agomelatine
アミトリプチリン
カルバマゼピン
citalopram
クロミプラミン
ジアゼパム
エスシタロプラム
fluoxetine
イミプラミン
?メラトニン
?メサドン
moclobemide
フェニトイン
セルトラリン
スボレキサント
トリミプラミン
エスシタロプラム
フルボキサミン
moclobemide
モダフィニル
トピラマート
カルバマゼピン
セントジョンズワート

CYP2D6

基質 阻害薬 誘導薬
アミトリプチリン
「アンフェタミン系薬剤」
アトモキセチン
アリピプラゾール
ブレクスピプラゾール
cariprazine
クロルプロマジン
citalopram
クロミプラミン
クロザピン
deutetrabenazine
ドネペジル
デュロキセチン
エスシタロプラム
fluoxetine
フルボキサミン
フルフェナジン
ガランタミン
ハロペリドール
iloperidone
イミプラミン
メサドン
ミアンセリン
ミルタザピン
moclobemide
ノルトリプチリン
オランザピン
パロキセチン
ペルフェナジン
ピモジド
クエチアピン
リスペリドン
セルトラリン
トラゾドン
トリミプラミン
valbenazine
ベンラファキシン
ボルチオキセチン
zuclopenthixol
アミトリプチリン
アセナピン
bupropion
クロルプロマジン
citalopram
クロミプラミン
クロザピン
デュロキセチン
エスシタロプラム
fluoxetine
フルフェナジン
フルボキサミン
ハロペリドール
レボメプロマジン
メサドン
moclobemide
パロキセチン
ペルフェナジン
reboxetine
リスペリドン
セルトラリン
ベンラファキシン
知られていない

CYP2E1

基質 阻害薬 誘導薬
bupropion
エタノール
ジスルフィラム
paracetamol(アセトアミノフェン)
エタノール

CYP3A4

基質 阻害薬 誘導薬
alfentanyl
アルプラゾラム
アミトリプチリン
アリピプラゾール
ブレクスピプラゾール
ブプレノルフィン
bupropion
buspirone
カルバマゼピン
cariprazine
クロルプロマジン
citalopram
クロミプラミン
クロナゼパム
クロザピン
ジアゼパム
ドネペジル
ドスレピン
エスシタロプラム
フェンタニル
fluoxetine
ガランタミン
ハロペリドール
イミプラミン
レンボレキサント
ルラシドン
メサドン
ミダゾラム
ミルタザピン
モダフィニル
ニトラゼパム
ペルフェナジン
pimavanserin
ピモジド
クエチアピン
reboxetine
リスペリドン
sertindole
セルトラリン
スボレキサント
トラゾドン
トリミプラミン
valbenazine
ベンラファキシン
vilazodone
zaleplon
ziprasidone
ゾルピデム
ゾピクロン
fluoxetine
フルボキサミン
パロキセチン
ペルフェナジン
reboxetine
アセナピン?
カルバマゼピン
モダフィニル
フェノバルビタール「およびおそらくその他のバルビツール酸系薬剤」
フェニトイン
セントジョンズワート
トピラマート

(吉田 和生)

参照文献
  1. Schoretsanitis G, et al. TDM in psychiatry and neurology: a comprehensive summary of the consensus guidelines for therapeutic drug monitoring in neuropsychopharmacology, update 2017; a tool for clinicians. World J Biol Psychiatry 2018; 19:162–174.