モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

抗うつ薬の中止

約半数の患者が,抗うつ薬の減量や中止により離脱症状を経験する1。一部の患者(おそらく最大で半数の患者)では症状が重度であり1,長期間(数ヵ月または数年)持続することもある1, 2。それ以外の患者では軽度で自然に消失する。急性離脱後症候群(PAWS)として知られる離脱症状の別のカテゴリーが認識されてきており,数年間持続することもあり,無数の,時には衰弱性の症状を伴うこともあるが,病態生理は十分に解明されていない3

離脱症状の起こりやすさに影響を及ぼす抗うつ薬の使用法には多くの特徴がある。長期間,高用量で抗うつ薬を使用している患者は症状がより現れやすい4, 5。半減期の短い抗うつ薬,抗コリン作動性またはノルアドレナリン作動性の抗うつ薬は,より重度の離脱症状に関連する傾向があり,ベンラファキシン,デュロキセチンおよびパロキセチンは最も伴うことが多い6, 7。突然または時間をかけずに薬剤を中止した患者では離脱症状が生じやすい8-10。また,個体間の生理学的(および心理的)な様々な差異が離脱症状の重症度を決定づけている可能性もあるが,まだ十分に解明されていない11

用量漸減の理論的根拠

時間をかけて用量を漸減すると,症状を長期間に分散させることによって,忍容しがたい離脱症状が起こる可能性を低減できるというエビデンスがある9, 10, 12。複数の無作為化試験で,漸減期間が14日以内の場合,突然中止した場合と比べて,離脱症状の重症度に全く改善がみられないか13,改善されたとしてもごくわずかである14ことが明らかにされている15。概してこれらの試験から,より長い期間をかけた漸減法が必要であると結論付けられている16, 17。数ヵ月かけて漸減すると9, 10, 12,離脱症状のリスクが低下するようであるが,患者によっては数年かかる場合もある。臨床経験から,抗うつ薬の長期投与を忍容できる形で中止するには,ほとんどの患者で3ヵ月から2年必要であることが示唆される。

直感的には線形的な減量(例:セルトラリンなら50mg,37.5mg,25mg,12.5mg,0mg)が合理的(かつ錠剤を分割すればよいため実用的)であるように思われるが,抗うつ薬の用量と主な標的であるセロトニン受容体(SERT)に対する作用との間に双曲線的相関があることから,(質量作用の法則に従って)18この方法では徐々に離脱症状の重症度が高くなっていく可能性がある(図3.4a11。このことは,低用量となってからの減量が漸減プロセスの最も難しい側面であるとの患者報告と一致している。

標的受容体への作用の低下量が「一定」となるように薬剤を減量することが理に適っており,双曲線的な減量が必要となる(図3.4b)。最もわかりやすくいえば,指数関数的(比率的)減量に近く,例えば2-4週毎に直近の用量の10-20%減量する方法である(表3.10)。完全に中止する直前の用量は,ゼロへの減量が前回までの忍容できた減量よりも大幅な「急減」とならないよう,ごく微量(1mg未満)とする必要がある。これは,通常の治療量(例:セルトラリンなら0.5mg)よりもはるかに少ない用量に漸減することで,抗うつ薬を中止でき12, 19,使用しない状態を維持できる可能性が高まるとのエビデンスによって裏付けられている20

図3.4

 (a)線形的な減量では標的受容体への作用の低下幅が徐々に大きくなり,おそらく離脱症状の増加に関連すると考えられる。(b)標的受容体における作用の低下量を一定に保つには,双曲線的な減量が必要となる。中止直前の用量はごく微量とする必要がある。

表3.10 セルトラリンを各期間に,(前回の用量に基づいて)20%ずつ減量する減量スケジュール例

期間 用量(mg) 期間 用量(mg) 期間 用量(mg)
1 200 12 17 23 1.5
2 160 13 14 24 1.2
3 128 14 11 25 0.9
4 102 15 9 26 0.75
5 82 16 7 27 0.6
6 66 17 5.5 28 0.5
7 52 18 4.5 29 0.4
8 42 19 3.6 30 0.3
9 34 20 2.9 31 0.25
10 27 21 2.3 32 0
11 21 22 1.8

多くの患者が,これよりさらに多くのステップで,毎月,直近の用量のわずか5-10%ずつ減量する。
2-4週間かけると忍容可能と考えられるが,より長期を要する患者もいる。0.25mgから0mgへの減量は,前回までの減量と効果の大きさが等しくなる(20%の減量は,セロトニン・トランスポーター阻害作用の3パーセントポイントの低下にほぼ相当する)。

用量漸減の実際の適用

漸減を開始する前に

すべての患者に,いずれの抗うつ薬にも離脱症状のリスクがあることを説明すべきである。パロキセチンやベンラファキシンなど,重度の離脱症状に関連することが多い薬剤もある。

抗うつ薬を突然中止することは,重度かつ長期間持続する離脱症状を引き起こしたり,再発リスクを高めたりする可能性が最も高い方法であるため,突然中止しないよう患者に警告すべきである(図3.4)。

抗うつ薬の中止は一部の不快な症状を引き起こす可能性があるが,緩徐に慎重に漸減すれば離脱症状を忍容可能なレベルに維持できることを患者に説明すべきである。患者が過去に急激な減量によってネガティブな経験をしている可能性もあるため,安心させることも必要と考えられる。

個々の患者が漸減により抗うつ薬を中止するのに,正確にどの程度の期間を要するかを予測することは困難であるが,長期間使用している患者ではほとんどが約3ヵ月,場合によっては最長2年かかる。これは予測を立てるうえで有用かもしれない。

漸減期間中にどのような症状が生じるかを予測するのに役立つ場合があるため,患者が過去に薬剤を中止した経験を詳しく聞くべきである。これまでの中止の試みを慎重に考慮することで,再発だと誤診された離脱症状を検出できる可能性がある。

抗うつ薬を漸減するにあたって,患者に事前準備が必要となることが多い。仕事や家事を軽減する手はずを整えたり,非薬物的な対処技能(受容,呼吸法,運動,趣味,日記,破局的思考から脱することなど,患者は様々な有用な方法を見出している)にさらに重点を置いたりしてもよい21, 22。マインドフルネス認知療法(MB-CT)は抗うつ薬を中止するプロセスで役立つというエビデンスがある23

離脱期間に,患者はネガティブな心理的・身体的症状を経験する可能性があるが,その場合に抗うつ薬を全量投与する必要があるということでは必ずしもない(ただし漸減のペースは落とす必要があるかもしれない)ことを,医師,患者とも認識しておくべきである。患者と医師が多様な離脱症状を熟知しておくと,症状が発現したときに不必要な不安を軽減するのに有用である可能性がある。薬剤中止までの期間は,専門家によるものであれ,その他の方法であれ,患者のサポートがより必要となるかもしれない22

用量漸減のプロセス

以下のように患者を大まかにリスク層別化することができよう。

低リスク患者(使用期間が6ヵ月未満,半減期の長い抗うつ薬,過去に重大な離脱症状を経験していない)では,試験的減量(25%)を行ってもよい。

高リスク患者(使用期間が6ヵ月超,半減期の短い抗うつ薬,離脱症状の既往あり)では,5-10%の試験的減量を推奨する。

すべての患者において2-4週間または症状が消失するまで,離脱症状をモニタリングすべきである。モニタリングには,症状の簡易な評価指標(例:10項目)を毎日用いるか,DESSのような標準化された尺度を用いてもよい24

さらなる減量は試験的減量の忍容性に照らして行うべきである。初回減量が忍容可能であり,離脱症状がみられなかった,またはモニタリング期間が終わるまでに消失した場合は,同一の比率(前回の用量に基づいて計算することに注意)および同一のペースで減量を続ける。表3.10に示す減量方法の例を参照されたい。症状が忍容できないものであった場合はペースを落として漸減を継続し,症状が重度であった場合は,前回の用量に戻り,安定化期間をとってから,より慎重な減量スケジュールで漸減する。

問題が発生した際の対応

どの時点であれ離脱症状が忍容できないものになった場合は,現行の用量を維持し,症状が消失するよう投与期間を延長するか,症状が極めて不快であれば,症状が忍容可能であった前回の用量に増量し,症状が消失するまでその用量を維持する。安定化した後は,減量幅をより小さくするか次の減量までの期間を延長する,あるいはその両方によって漸減をさらに緩徐に行う必要がある。1ヵ月に前回の用量の5%を超える減量はできない患者もいる。

苦痛をもたらす離脱症状が認められる場合でも,抗うつ薬を中止できないことを意味するわけではなく,これまでよりも減量幅を小さくして漸減のペースを落とす必要を示していることを覚えておくことは重要である。

fluoxetineは半減期が長いため,離脱症状が数週間遅れて発現することがあるので十分注意する必要がある。離脱期間がより長期となるため,fluoxetineの減量幅を大きくしても比較的忍容性がある11。また,fluoxetineは投与頻度を減らすことによっても減量が可能である(例:20mg/日を週6日投与した後,20mg/日を週5日投与など)。

残念ながら,現在,抗うつ薬の剤形は錠剤であるため,薬理学的データを反映した漸減レジメンは不可能であり,患者は液剤の抗うつ薬を使用(またはオランダの漸減用フィルム製剤を入手)する必要がある19。液剤がない抗うつ薬の場合,液剤を調合しなければならないが,液剤のある薬剤に切り替えてもよい。多くの患者が,錠剤を分割して計量したり,錠剤を粉砕して溶液を作ったりしていると報告しているが,このような方法は推奨できない。

完全に薬剤を中止する前の数回の用量は,伝達系に対する作用が大きく低下することを避けるため,ごく微量とする必要がある。多くの薬剤では,最終用量が1mgを大きく下回るようにしなければならない。例えば,セルトラリンを1ヵ月に10%ずつ減量した患者では,セロトニン・トランスポーター阻害作用を前回までの減量時とほぼ同程度に低下させるために,最終用量を0.1mgとする必要がある11

Box 3.1 セルトラリンを指数関数的パターンに従って漸減するための簡易ガイド。ここに示した減量範囲は各段階の約10-20%の減量に相当する。これより減量幅を抑える必要がある患者もいれば,これより大幅な減量をより速いペースで行っても忍容可能な患者もいる。

  • 50mg/日に到達するまで2-4週毎に12.5-25mg減量する
  • 15mg/日に到達するまで2-4週毎に2-5mg減量する。その後
  • 9mg/日に到達するまで2-4週毎に1-2mg減量する。その後
  • 4mg/日に到達するまで2-4週毎に0.4-1mg減量する。その後
  • 2mg/日に到達するまで2-4週毎に0.2-0.4mg減量する。その後
  • 完全な中止まで2-4週毎に0.1-0.25mg減量する

このプロセスは通常3ヵ月-2年かかるが,より長期を要する患者もいる。


<編集協力者コメント>

本邦では割線の入っている錠剤もあり,用量調整に役立つことも多い。

(内田 裕之)

参照文献
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