γ-ブチロラクトン(GBL)とγ-ヒドロキシ酪酸(GHB)依存症
GHBやGBLの使用は一般的ではないが,依存症患者においては離脱症状が急激に生命を脅かす激越性せん妄に至ることがあり,臨床的には重要である。合併症にはけいれん発作,徐脈,心停止,腎不全等がある。急性期病院や精神科の医師は,このような急性離脱症状を認識,管理できる必要がある。
γ-ヒドロキシ酪酸(GHB)およびγ-ブチロラクトン(GBL:GHBのプロドラッグ)は,口語では「G」と呼ばれることが多い。主にGABA-B受容体への作用を介して不安の軽減,脱抑制,および鎮静をもたらす。これらの薬剤は,社交場面において快楽を得る目的や,時には睡眠導入のためにも使用される。男性間性交渉者では,しばしばメフェドロンやクリスタル・メタンフェタミンのような精神刺激薬との併用で,大きな危険を伴いうる性行動「chemsex(薬物影響下での性交渉)」に関連した状況で,性行為を促進するために用いられる場合がある。GHB,GBLとも治療域が狭いため,過量投与となることが稀ではない。依存症は稀であるが,依存症患者では離脱症状が急激に生じ,被害妄想や生命を脅かす合併症を伴う重度のせん妄が生じる可能性がある1 。
離脱症候群1, 2
依存症患者はGHBやGBLを「一日中使用している」(昼夜を問わず1-3時間毎,もしくはそれ以上の頻度)。離脱症状が発現するのは通常,最終投与の数時間後である。離脱症候群はアルコールの場合と同様であり,頻脈,不眠,不安,発汗,微細振戦等が発現しうる1 。無治療のまま放置すると,精神病性症状(被害妄想,幻覚等)をしばしば伴う激越性せん妄が生じ,さらには重度の振戦,筋強剛,けいれんに進行する可能性がある1 。筋強剛は,発熱,横紋筋融解,急性腎不全を引き起こすほど重度になりうる。症状を管理する薬物療法の必要性は4-6日間で低減するが,離脱症状がこれより長期間持続したという症例報告もある。
離脱症状の管理(表4.18,表4.19)
解毒に関するエビデンスは限られている。離脱の管理の原則は早期に治療を開始して,せん妄および他の合併症の発現を防ぐことである。せん妄が一度生じると管理が困難になる3 。早期のベンゾジアゼピン系薬剤による治療が必要であり,バクロフェン(GABA-B作動薬)およびフェノバルビタールも有効な補助的薬剤として使用されている1, 4。バクロフェンはオンラインで自由に入手でき,使用者は非監視下での離脱治療のために入手する可能性があるが5 ,離脱には危険が伴うため,このような手段を決してとらないよう助言すべきである。
また,GHBそのものも離脱症状治療のために用いられており6 ,その場合,減量は最長2週間をかけて3時間毎に行う。離脱症状の管理において,薬剤としてのGHBはベンゾジアゼピン系薬剤よりも有効であるかもしれない7 。
既存のアルコール離脱評価尺度は,GHB離脱症状の重症度を評価するうえでは役に立たない可能性が高い。GHB/GBL離脱症状管理に関する最新のガイドラインについては,(英国では)国立中毒情報センター(NPIS)のNPIS 24時間電話サービスおよび中毒情報データベースであるTOXBASE® から入手することが推奨される。
臨床医が熟知しておくべきケースとして,依存使用者における予期せぬ急性離脱と予期された選択的離脱(elective withdrawal)の2つが挙げられる。
表4.18 予期せぬ急性離脱の管理
治療場所 |
|
初期の薬物療法 |
|
補助的な薬物療法 |
|
*フェノバルビタール,チオペンタールおよびプロポフォールの呼吸抑制作用はリバースすることができない。人工呼吸器を利用できるようにしておく。
ICU:集中治療室
表4.19 計画的な選択的離脱の管理
治療場所 |
|
離脱前 |
|
離脱 |
|
離脱後 |
|
(内田 貴仁)
参照文献
- Kamal RM, et al. Pharmacological treatment in gamma-hydroxybutyrate (GHB) and gamma-butyrolactone (GBL) Dependence: detoxification and relapse prevention. CNS Drugs 2017; 31:51–64.
- Bell J, et al. Gamma-butyrolactone (GBL) dependence and withdrawal. Addiction 2011; 106:442–447.
- Novel Psychoactive Treatment UK Network (NEPTUNE). Guidance on the clinical management of acute and chronic harms of club drugs and novel psychoactive substances. 2015; http://neptune-clinical-guidance.co.uk/wp-content/uploads/2015/03/NEPTUNE-Guidance-March-2015.pdf.
- LeTourneau JL, et al. Baclofen and gamma-hydroxybutyrate withdrawal. Neurocrit Care 2008; 8:430–433.
- Floyd CN, et al. Baclofen in gamma-hydroxybutyrate withdrawal: patterns of use and online availability. Eur J Clin Pharmacol 2018; 74:349–356.
- Dijkstra BA, et al. Detoxification with titration and tapering in gamma-hydroxybutyrate (GHB) dependent patients: the Dutch GHB monitor project. Drug Alcohol Depend 2017; 170:164–173.
- Beurmanjer H, et al. Tapering with pharmaceutical GHB or benzodiazepines for detoxification in GHB-dependent patients: a matchedsubject observational study of treatment-as-usual in Belgium and the Netherlands. CNS Drugs 2020; 34:651–659.
- Vos CF, et al. Successful treatment of severe, treatment resistant GHB withdrawal through thiopental-coma. Subst Abus 2020; 1–6.
- Beurmanjer H, et al. Baclofen to prevent relapse in gamma-hydroxybutyrate (GHB)-dependent patients: a multicentre, open-label, nonrandomized, controlled trial. CNS Drugs 2018; 32:437–442.