モーズレイ処方ガイドライン第14版(The Maudsley PrescribingGuidelines inPsychiatry 14thEdition)menu open

γ-ブチロラクトン(GBL)とγ-ヒドロキシ酪酸(GHB)依存症

GHBやGBLの使用は一般的ではないが,依存症患者においては離脱症状が急激に生命を脅かす激越性せん妄に至ることがあり,臨床的には重要である。合併症にはけいれん発作,徐脈,心停止,腎不全等がある。急性期病院や精神科の医師は,このような急性離脱症状を認識,管理できる必要がある。

γ-ヒドロキシ酪酸(GHB)およびγ-ブチロラクトン(GBL:GHBのプロドラッグ)は,口語では「G」と呼ばれることが多い。主にGABA-B受容体への作用を介して不安の軽減,脱抑制,および鎮静をもたらす。これらの薬剤は,社交場面において快楽を得る目的や,時には睡眠導入のためにも使用される。男性間性交渉者では,しばしばメフェドロンやクリスタル・メタンフェタミンのような精神刺激薬との併用で,大きな危険を伴いうる性行動「chemsex(薬物影響下での性交渉)」に関連した状況で,性行為を促進するために用いられる場合がある。GHB,GBLとも治療域が狭いため,過量投与となることが稀ではない。依存症は稀であるが,依存症患者では離脱症状が急激に生じ,被害妄想や生命を脅かす合併症を伴う重度のせん妄が生じる可能性がある1

離脱症候群1, 2

依存症患者はGHBやGBLを「一日中使用している」(昼夜を問わず1-3時間毎,もしくはそれ以上の頻度)。離脱症状が発現するのは通常,最終投与の数時間後である。離脱症候群はアルコールの場合と同様であり,頻脈,不眠,不安,発汗,微細振戦等が発現しうる1 。無治療のまま放置すると,精神病性症状(被害妄想,幻覚等)をしばしば伴う激越性せん妄が生じ,さらには重度の振戦,筋強剛,けいれんに進行する可能性がある1 。筋強剛は,発熱,横紋筋融解,急性腎不全を引き起こすほど重度になりうる。症状を管理する薬物療法の必要性は4-6日間で低減するが,離脱症状がこれより長期間持続したという症例報告もある。

離脱症状の管理(表4.18,表4.19)

解毒に関するエビデンスは限られている。離脱の管理の原則は早期に治療を開始して,せん妄および他の合併症の発現を防ぐことである。せん妄が一度生じると管理が困難になる3 。早期のベンゾジアゼピン系薬剤による治療が必要であり,バクロフェン(GABA-B作動薬)およびフェノバルビタールも有効な補助的薬剤として使用されている1, 4。バクロフェンはオンラインで自由に入手でき,使用者は非監視下での離脱治療のために入手する可能性があるが5 ,離脱には危険が伴うため,このような手段を決してとらないよう助言すべきである。

また,GHBそのものも離脱症状治療のために用いられており6 ,その場合,減量は最長2週間をかけて3時間毎に行う。離脱症状の管理において,薬剤としてのGHBはベンゾジアゼピン系薬剤よりも有効であるかもしれない7

既存のアルコール離脱評価尺度は,GHB離脱症状の重症度を評価するうえでは役に立たない可能性が高い。GHB/GBL離脱症状管理に関する最新のガイドラインについては,(英国では)国立中毒情報センター(NPIS)のNPIS 24時間電話サービスおよび中毒情報データベースであるTOXBASE® から入手することが推奨される。

臨床医が熟知しておくべきケースとして,依存使用者における予期せぬ急性離脱と予期された選択的離脱(elective withdrawal)の2つが挙げられる。

表4.18 予期せぬ急性離脱の管理

治療場所
  • 予期せぬ急性離脱は救急事案であり,急性期病院の入院環境で管理すべきである
  • 離脱症状が重度の場合はICUへの入室が必要となる場合がある
初期の薬物療法
  • 初期離脱症状が認められる場合はジアゼパム20mgの経口投与を開始する
  • 症状を管理できるまで30分から4時間の間隔を空けてジアゼパム投与を繰り返す
  • GBL離脱では多くの場合,最初の24時間で60-80mgのジアゼパム投与が必要となる
  • 最高300mg/日のより高用量のジアゼパム経口投与が必要となる場合もある
  • 患者が傾眠状態になったらジアゼパムを中断し,診断を見直す
  • 重症の場合は患者1名につき看護師1名による対応が管理に役立つだろう
  • リバースの必要性に備え,フルマゼニルをすぐ利用できるようにしておく
補助的な薬物療法
  • ベンゾジアゼピン系薬剤で十分な効果が得られない場合は,バクロフェン10mg1日3回の経口投与とベンゾジアゼピン系薬剤による離脱治療レジメンの併用を開始する
  • 不安および激越が持続する場合は20mg1日3回の経口投与に用量を漸増することができる
  • 重度の離脱症状がみられる場合はフェノバルビタール150-450mg/日の静注を追加することを検討する(ICUに限る)
  • 重度の離脱症状を管理できない場合は,プロポフォール等麻酔薬の静注が必要となる可能性がある(ICUに限る)。重度の治療抵抗性の離脱症状にはチオペンタールによる昏睡療法も用いられている8

フェノバルビタール,チオペンタールおよびプロポフォールの呼吸抑制作用はリバースすることができない。人工呼吸器を利用できるようにしておく。
ICU:集中治療室

表4.19 計画的な選択的離脱の管理

治療場所
  • 計画的離脱は必ず医学的監視下で行う必要がある
  • 外来受診による自宅での解毒は,せん妄や精神病の既往がない場合に限るべきである。離脱過程をモニタリング・支援できる同居の第三者が必要である。症状がコントロール不良な場合には入院施設への患者の搬送を選択できるようにすべきである
離脱前
  • 患者自身および患者の支援者と共に治療計画について話し合う
  • 頻度や用量等,GBL使用について1週間日誌に記録するよう患者に勧める
  • 患者には選択的離脱を開始する前にメフェドロン,クリスタル・メタンフェタミン等の薬物の「併用」を中止するよう勧める
  • 目標とする離脱日の3-7日前にバクロフェン10mg1日3回の経口投与を開始する
  • GBLの1回量を1-2日毎に0.1mL減らすか,使用間隔を延長してGBL使用量を忍容可能な限り減少させるよう患者に勧める
離脱
  • 外来での離脱計画の1日目は,GBLを2時間以上使用していない状態で来院するよう指示し,手持ちのGBLを廃棄するよう助言する
  • 1日目には最長4時間病院にいる必要がある。離脱期間中は自動車の運転ができないこと,飲酒,他の鎮静薬の摂取をしないことについて患者に助言する
  • バクロフェンを20mg1日3回経口投与に増量する
  • 頻脈,手掌の発汗,微細振戦,不安等の離脱徴候や症状が現れたらベンゾジアゼピン系薬剤の投与を開始する。ジアゼパム20mgの投与を開始する。2時間後に評価し,不安/鎮静/呼吸抑制の有無をモニタリングする。必要に応じて最大20mgのジアゼパム経口投与を行う
  • GBLの最終使用後6時間が経過したらジアゼパムをさらに最大40mg持ち帰り用に処方でき,翌2日間は診察を行う
  • 各日の来院毎にジアゼパムの用量を症状に合わせて見直し,調節する。ジアゼパムが7日間を超えて必要となることは稀である。標準的な最初のジアゼパム1日量は約40-60mgである
離脱後
  • 4-6週間かけてベンゾジアゼピン系薬剤を減量し中止した後,バクロフェン20mg1日3回の経口投与を継続する。この領域での試験は少ないが,そのうち1件ではバクロフェン45-60mg/日を3ヵ月間投与して管理に成功している9
  • 離脱後は不安および不眠が持続することが多く,再発のリスクが高い。選択的離脱治療を開始する前に,再発リスクを最小限にとどめるため,患者を最低でも4週間にわたってモニタリングおよび支援するための計画を立てる必要がある

(内田 貴仁)

参照文献
  1. Kamal RM, et al. Pharmacological treatment in gamma-hydroxybutyrate (GHB) and gamma-butyrolactone (GBL) Dependence: detoxification and relapse prevention. CNS Drugs 2017; 31:51–64.
  2. Bell J, et al. Gamma-butyrolactone (GBL) dependence and withdrawal. Addiction 2011; 106:442–447.
  3. Novel Psychoactive Treatment UK Network (NEPTUNE). Guidance on the clinical management of acute and chronic harms of club drugs and novel psychoactive substances. 2015; http://neptune-clinical-guidance.co.uk/wp-content/uploads/2015/03/NEPTUNE-Guidance-March-2015.pdf.
  4. LeTourneau JL, et al. Baclofen and gamma-hydroxybutyrate withdrawal. Neurocrit Care 2008; 8:430–433.
  5. Floyd CN, et al. Baclofen in gamma-hydroxybutyrate withdrawal: patterns of use and online availability. Eur J Clin Pharmacol 2018; 74:349–356.
  6. Dijkstra BA, et al. Detoxification with titration and tapering in gamma-hydroxybutyrate (GHB) dependent patients: the Dutch GHB monitor project. Drug Alcohol Depend 2017; 170:164–173.
  7. Beurmanjer H, et al. Tapering with pharmaceutical GHB or benzodiazepines for detoxification in GHB-dependent patients: a matchedsubject observational study of treatment-as-usual in Belgium and the Netherlands. CNS Drugs 2020; 34:651–659.
  8. Vos CF, et al. Successful treatment of severe, treatment resistant GHB withdrawal through thiopental-coma. Subst Abus 2020; 1–6.
  9. Beurmanjer H, et al. Baclofen to prevent relapse in gamma-hydroxybutyrate (GHB)-dependent patients: a multicentre, open-label, nonrandomized, controlled trial. CNS Drugs 2018; 32:437–442.